寄生・共生性貝類の多様性と進化
他の生物に寄生・共生する習性は、様々な分類群で繰り返し進化しており、生物の進化や多様化に多大な影響を及ぼしている(Poulin & Morand 2000)。海洋で著しい繁栄を遂げた軟体動物においても、二枚貝綱や腹足綱の複数の系統で寄生・共生性が進化している(Warén 1983; Savazzi 2001)。これら寄生・共生性の貝類は、しばしば豊富な種数と高い形態的・生態的多様性によって特徴づけられるが、その多様性が生まれた進化的な背景についての知見は限られている。本発表では、ウロコガイ上科の共生性二枚貝類を中心として、寄生性・共生性貝類の多様性や進化について紹介する。
ウロコガイ上科Galeommatoideaは、熱帯の浅海域を中心に著しい多様化を遂げた小型の二枚貝類の一群である (Bouchet et al. 2002; Paulay 2003)。面白いことに、本上科の二枚貝の多くは、他の動物の体表や巣穴に居候(片利共生)するユニークな生態をもつ。上科全体での宿主の範囲は極めて広く、節足動物、棘皮動物、環形動物、腕足動物、軟体動物、刺胞動物、海綿動物、脊椎動物、苔虫動物など9動物門にも及ぶ(Boss 1965; Morton & Scott 1983)。本発表では、ウロコガイ上科二枚貝類がいかにして様々な宿主との共生生活に適応し、多様化を遂げてきたのかについて、フィールドワークや分子系統解析から得られた知見を幅広く紹介する。