軟体動物貝殻の色彩パターン
〜擬態の進化史研究のモデルを目指して〜
石川 牧子 (東京大学・院理 / JSPS PD)
 動物の色彩パターンの多くは捕食者(または被食者)の視覚に応答して進化したと考えられており,生息時の動物の隠蔽的擬態の見事さは進化史における視覚の重要性を物語っている.視覚による選択圧は,カンブリア紀に生物が視覚系を獲得して以降,5億年超の長い歴史があると考えられるが,色彩パターンの進化史の追跡は必ずしも容易ではない.最大の問題は,進化の歴史を直接的に追うために欠かせない化石試料の制約である.近年,化石からの色彩復元は羽毛のメラノソーム形状の観察による絶滅した鳥や恐竜の体色復元により脚光を浴びているが,羽毛や皮膚などの色彩を持つ軟組織は保存されにくく,連続的な色彩パターンの進化史を追うのは困難である.この点において,軟体動物の貝殻の色彩パターンは化石としても保存されやすく,長い時間軸での色彩パターンの進化史研究を可能にする優れた材料である.
 貝殻の色素化合物は難溶性かつ易分解性であるという特性から,軟体部の色素と比較して研究が大きく遅れている.可視領域に吸収を示す生体色素には多くの種類が知られているが,現在までに貝殻色素の候補として報告されている主な化合物は,テトラピロール(ポルフィリンやビリン),インドール系色素,インドールやキノンの重合体であるメラニン,そしてポリエン骨格を持つ化合物(カロテノイドなど)などである.本講演では,貝殻色素化合物の同定,およびそこから明らかになってきた貝殻の色彩パターンの制御機構を,発表者らの研究を中心に紹介する.

  1. 石川牧子 他. (2013) 【総説】軟体動物における貝殻色素研究の現在 月刊地球 35(12): 712-719.
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last update: 2014-3-3, open: 2014-2-24
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