腹足類の殻形態と物理的制約への理論形態学的アプローチ
野下 浩司 (九州大学 システム生命科学府)
 物理的,発生的,系統的,生態学的な制約の結果生じる,生物のかたちの規則性や多様性を理解したい. 腹足類は幅広い環境に生息し,その殻形態の多くは螺旋形に巻くという規則性と, 様々な“巻き”パタン示すという多様性を併せ持つため,かたちの制限要因と規則性や多様性の関係を調べるのに適した対象といえる. 近年,腹足類の殻の“巻き”のパタンと殻口の傾きは殻の“バランス”と“つくり易さ”によりある程度説明されうることが明らかになってきた[1, 2, 3].
 本講演では,形態の適応性を評価することで,観察される形態的な規則性や多様性の説明を試みる枠組みの一例を示したい. まず水生種が陸生種に比べ小さい殻口の傾きをもつこと,殻の高さと殻口の傾きに見られる“関係”が陸生種と水生種で異なること, を標本の測定結果として報告する.理論形態モデルを用いて重力と抗力による殻のバランスを評価し, 標本の測定結果と比較したところ,陸生種は水生種に比べ,重力による殻のバランスが良いことがわかった. これは浮力の影響を受けない陸環境の物理的な性質を反映したものと考えられる. さらに,重力と抗力による殻のバランスの両方が「殻が高く,殻口の傾きが小さい殻形態」で悪くなることが明らかとなり, これまでの観察事実と一致する[4].
 特定の形態をもつために避けられない物理的な制限要因を評価することは, その形態的な規則性や多様性を考える上で有用である.しかし,生物のかたちは発生的なプロセスによりつくられ, 生物間の相互作用のなかで淘汰される.異なる生物学的階層をつなぐためには各階層で多様性を評価し, それをどのような基準のもと“読み換える”かといった枠組みを整備する必要があるだろう.

  1. Okajima, R. and Chiba, S. (2009) Evolution 63: 2877-2887.
  2. Okajima, R. and Chiba, S. (2011) American Naturalist 178 :801-809.
  3. Noshita, K., Asami, T. and Ubukata, T. (2012) Paleobiology 39(2): 322–334
  4. Vermeij (1971) Journal of Zoology 163:15–23
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last update: 2013-2-21, open: 2013-2-21
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