キネシンヘテロダイマーの運動速度と、頭部の速い結合解離による「ホッピング」

今福泰浩*、太和田勝久、Neil Thomas
(*九大・理・生物・生体高分子学)

08/09/24, 15:00 (理学部3号館6階数理生物学セミナー室)


2つの相同な頭部を持つキネシン分子モーターは、微小管上を単分子で運動することができ、これをプロセッシブ運動と呼ぶ。キネシンのプロセッシブ運動における2つの頭部の寄与を明らかにするために、加世田らは、キネシン頭部のチューブリン結合ループに変異を含んだ変異体ホモダイマーおよびヘテロダイマーを作成した。運動解析によると、ヘテロダイマー単分子の運動速度と最大張力は、いずれも野生型と変異体ホモダイマーの中間であった(PNAS USA 99, 16058, 2002)。

チューブリン結合ループに変異がある頭部は微小管から解離しやすいと考えられる。私たちはこの考えに基づき、ATP分解を伴わない速い結合解離の繰り返しによってキネシン頭部が微小管上の結合サイトを移動する現象(これを「ホッピング」と呼ぶ)の解析を行った。この解析から、ホッピングは流体摩擦に似た性質を持ち、ホッピングによる運動速度は負荷に比例することがわかった。

私たちはキネシンのプロセッシブ運動のモデル(Proc. Roy. Soc. Lond. B 269, 2363-2371, 2002.)を、ホッピングを含むように拡張した。このモデルによって、変異体ホモダイマーの速度張力関係を説明できた。さらに、野生型と変異体ホモダイマーの実験結果を解析することによって、ヘテロダイマーの速度張力関係を予想することもできた。この予想は加世田らの実験結果とよく合致した。また、変異体におけるホッピングによって逆方向ステップが高負荷条件において、特に頻繁に起きることもわかった。


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