完全変態をする昆虫は、幼虫期の体内で既に将来的に成虫期の器官となる運命を持つ成虫原基と呼ばれる細胞集団を持っている。翅原基は成虫原基のひとつであり、その名の通り将来的に翅となる部位を特定している。
キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)は様々な発生段階でよく研究されているモデル生物であるが、とりわけ翅原基においては多くの実験結果が得られている。キイロショウジョウバエの翅原基ではまず背腹軸及び前後軸に沿ったコンパートメント化が行われた後、翅への分化と成長が始まる。このとき、コンパートメント内の発生運命はさらに翅脈や葉状部、蝶番部などへ細分化されているが、この細分化において重要な役割を果たすとされているのが、拡散性の化学物質であるモルフォゲンである。Wg(Wingless)とDpp(Decapentaplegic)はキイロショウジョウバエの翅原基において働く代表的なモルフォゲンであり、それぞれ背腹および前後コンパートメント境界において分泌されるという特徴的な空間配置が成されていることが知られている。
今回の研究では、このモルフォゲンソースの空間配置の様式と発生におけるロバストネスとの関係を、反応拡散モデルと情報エントロピーを用いたシミュレーションによって検討する。
まだ本研究は始めて日が浅いため、当日はモデルの説明と予備的な結果を報告するに留めたい。
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