アポトーシスのシグナル伝達機構とその生物学的意義
-カスパーゼ活性化機構の可視化と進化に伴う多様性について-

酒巻 和弘
(京都大・生命科学研究科)

04/11/09, 1:30 at Room 3631 (6th floor of building 3 of the Faculty of Sciences)


細胞死は、細胞の増殖・分化と共に生体にとって必要不可欠な生命現象であ る。近年、細胞死(アポトーシス)のシグナル伝達経路が明らかとなり、哺乳 類ではTNFレセプターやFasを含むデスレセプターと称する細胞表面受容体を介 する経路と、UV照射や化学療法剤等の処理によるミトコンドリアからチトクロ ームCの流出が引き金となる2つの経路が存在することが判明した。いすれの 経路にも、カスパーゼと呼ばれる一群のシステイン-プロテアーゼやBcl-2ファ ミリーの分子が、それぞれ実行因子或いは制御因子として機能することが分か っている。今回、デスレセプターを介するアポトーシスのシグナル伝達機構に 関わる分子について、最近の知見と我々の研究を交えて紹介したい。また、ア ポトーシス誘導機構に関する種を越えた普遍性、或いは進化とともに多様化し たカスパーゼ分子について生物学的意義や役割についても考察したい。  我々が研究を行っているカスパーゼ8は、デスレセプターを介するアポトー シス誘導シグナルに必須な分子で、カスパーゼカスケードの最上流に位置す る。レセプターを介して活性化されたカスパーゼ8は、Bcl-2ファミリーの分子 のBidを切断することでミトコンドリアを介する経路を惹起する、或いは直接 カスパーゼ3を切断・活性化することが知られている。我々は、蛍光共鳴エネ ルギー移動(FRET)の原理を利用して、カスパーゼ8の活性化状態を個々の細胞 でモニターし、その変動を経時的に観察・解析することによって、細胞が死に 至る経緯を可視化できるようになった。またこれにより、実測データを数値と して示すこともできるため、数理モデルと比較することが可能となり、複雑な アポトーシスのシグナル伝達経路の活性化状態を細かく表示できるようになっ た。今回、これまでに得られた解析結果について報告するつもりである。  また我々は、カスパーゼ8が哺乳類だけでなく魚類にも存在し、哺乳類のホ モログと同様にアポトーシス誘導能を有していることを見出した。脊椎動物で はカスパーゼ8の機能は、保存されていると考えられるが、一方でカスパーゼ 8の活性化を制御する分子c-FLIPは、種間でゲノム構造等に相違点が見られ、 生物の多様性と何らかの関わりがあるかもしれない。この研究に関しても、問 題提起の形で紹介したい。


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