The cell-cell adhesion in the limb-formation, estimated from photographs of cell sorting experiments based on a spatial stochastic model.

望月 敦史 (九大・理・生物)

10月22日 (水) 午後1時30分より
理学部3号館 5階 3521 生物学教室会議室にて


細胞間接着力は動物の発生において重要な役割を果たしている。例えば、鳥 の肢芽が形成される時期の細胞を取り出し混ぜ合わせて培養するCell Sorting実験に よって、この時期の細胞接着分子の変化が調べられている。同じ発生段階から取り出 した細胞を混ぜ合わせたときには細胞は混ざったままであるのに対し、異なるステー ジから取り出した細胞を混ぜたときには、細胞は同じ種類の細胞どうしからなる固ま りに自然にSortingすることが分かっている。

これまで発表者らは数理モデルを用いて細胞選別の過程を研究してきた。格 子空間上に黒と白の2種類の細胞が存在し、隣り合う細胞間には接着力が働くと考え る。細胞分布は細胞の場所の入れ換わりによって確率的に変化するマルコフ過程だと 考える。今回発表者はこのモデルに基づき、Cell Sorting実験の結果の細胞分布の写 真から細胞間接着力を推定する新しい方法を開発したので報告する。

まず共同研究者(和田直之先生・早稲田大学)の協力によって、発生段階20 , 22, 24そして26の鳥の肢芽の中胚葉細胞を様々な組み合わせで混ぜるSorting実験 を行い、培養開始後の3時間おきに写真を撮ることによって細胞分布の変化を記録し た。細胞選別の度合いはqB/Bという統計量(ランダムに選ばれた黒細胞のとなりにや はり黒細胞が存在する確率)によって定量化できる。得られた実験写真を画像解析す ることによって、培養時間の経過とともにqB/Bの値が増加すること、ただしその増加 の様子は混ぜ合わせた細胞の組み合わせによって異なることが分かった。

一方、上記マルコフ過程モデルをコンピュータシミュレーションによって解 析した。qB/Bは時間とともに上昇し、その曲線は差次接着性Aαβ = λαα−2λα β +λββと細胞運動の激しさmに依存する。ここでλαβはα細胞とβ細胞の間に 働く接着力である。多数の計算を行うことによって、様々なAとmに対してqB/Bの時間 変化を一般的に記述する式を導いた。

実験で得られたqB/Bの時系列に対して、この一般式をfitさせることによっ て、差次接着性Aと細胞の運動性mが同時に推定できた。同じ発生段階から細胞を取り 出した実験ではAはほぼ0であったのに対し、異なる発生段階から細胞を取り出したと きはAは正であった。また混ぜ合わせた細胞の発生段階が離れているほど、差次接着 性Aが大きくなっていることが示唆された。

最後にこのようなCell Sortingの結果は、発生段階ごとの接着分子の切り替 わりを考えなくとも、1種類の接着分子の発現量の変化でも説明できることを示す。