海産緑藻における配偶子の行動と異形配偶子接合の進化
富樫 辰也(北海道大学 理学部)
10月9日 (金) 午後3:00

 古くから多くの理論家たちが取り組んできた異形配偶子接合の進化について、近年 、海産緑藻を材料にして私たちが明らかにしてきたことに基づきながら、数理モデル を用いて理論的に考察してみたいと思います。
 多くの海産緑藻では、雌雄の配偶子は同形もしくはわずかな異形で、どちらも眼点 と呼ばれる器官を有しており、放出された配偶子は正の走光性を示して海面直下に集 まります。これは、接合場所を2次元平面に限定することによって雌雄の配偶子の接 合頻度を高めることに役立っています。しかし、私たちは、異形配偶の進んだイワヅ タ目の海産緑藻ハネモの仲間では、雌性配偶子は眼点を有しており、正の走光性を示 すにもかかわらず、雄性配偶子には眼点が存在せず、走光性も示さないことに気が付 きました。正の走光性を示して海面直下に集まる雌性配偶子と走光性を示さない雄性 配偶子が効率的に接合できるのだろうか?という点に疑問を持って調べたところ、海 産緑藻では初めて、これらの雌性配偶子に雄性配偶子を誘引する性フェロモンが存在 することがわかりました。従って、雄性配偶子は走光性器官を失うまでに小型化し、 雌性配偶子は走光性器官を持ったまま大型化し性フェロモンを放出する能力を獲得し たのではないかと考えられます。
 モデルでは、まず、雌雄の配偶子は同じ量の資源から生産されるものとし、配偶子 の遊泳速度はその体長に反比例するものと仮定して、配偶子どうしの衝突頻度から形 成される接合子の数を推定しました。さらに、形成された接合子の生き残りやすさは それが有している資源の量(i.e. 容積)に比例するものと仮定し、考えられるさま ざまな配偶システムについて次代に残すことができるであろう子孫の数を比較しました。