寄主-寄生蜂系の共進化動態と持続性:
包囲作用とその対抗形質が種内競争力と trade-offするとき

津田みどり(九大・農・生防研)

7月 6日 (木) 午後1:30から
理学部3号館 6階 3631 数理生物学セミナー室


 
寄主には内部寄生蜂に寄生されると、その卵を血球で包囲して殺す「包囲作用」があ
り、最近Drosophilaにて、種内競争力と包囲作用の間でtrade-offがある(包囲作用
の強い集団は資源をめぐる競争に弱い)ことが発見された。一方、寄生蜂の方でも対
抗手段として、産卵時にウイルスを注入し包囲作用を免れている。本研究では、寄主
における種内競争力と包囲作用率の間、寄生蜂では種内競争力とウイルスの病毒性の
間のtrade-offが、寄主-寄生蜂系の持続性に与える影響を、簡単なモデルによって調
べた。
 モデルは寄主の種内競争を入れたNicholson-Bailey型で、寄主、寄生蜂それぞれに、
一方の表現型は他方との競争に常に勝つ反面、包囲作用が弱い(寄生蜂では競争優位
の型は病毒性が弱い)という2表現型を設け、絶滅の密度を決めて1000世代まで数値
計算した。結果は、次のように要約される(Tuda and Bonsall 1999)。

●実現寄生率が中程度のとき系が持続する。病毒性の高い寄生蜂表現型は必ず集団に
侵入するが、同時に寄主を絶滅させやすいため、存続できない。
●系の持続には、寄主集団にあるtrade-offの方が寄生蜂のそれより重要。この効果
により多型も寄主集団の方で維持されやすい。
●多型は特に、持続と絶滅の境界値にて維持されやすい。

 ごく最近、寄生蜂が局所集団では単型になりやすいという第2の結果を支持するよ
うな事実が、マルハナバチの寄生性ダニや、Drosophilaの寄生蜂において発見されて
いる。また、いわゆる「古典的」生物的防除(定着した天敵を持続的に用いる防除)
における「生物的防除のパラドックス」(系安定性と低害虫密度は理論上両立しない
という逆説)も、進化的要素を考慮すると成立しないことになる。
セミナーでは、他の理論研究(Sasaki and Godfray 1999)との比較・考察もしたい。