温帯におけるワーカー産卵の包括適応度モデル

辻 宣行(佐世保高専電子制御)

11月12日 (金) 午後3:30から
理学部3号館 6階 3631 数理生物学セミナー室


 多くのアリや高等なカリバチではワーカーたちは,単為生殖でオスを産むことはで きる.したがって,ワーカー間の順位行動はオス卵生産権をめぐるものであると解釈 できる.順位行動の上で最優位な個体が実際に主要なオス卵生産者となることが多い. その際に,しばしばワーカーの日齢がこの順位に影響することがわかっている.温帯 アシナガバチのコロニーは1年性で,春に創設され秋には崩壊するが,ワーカーのな かで最初に生まれた個体が,最優位ワーカーになることが知られている.一番年長の ワーカーは春先のまだコロニーが小さく栄養条件も良くない時期に生まれた個体であ る場合が多く,後から生まれてきた妹たちより身体が小さく貧弱に見えるにもかかわ らず,積極的に攻撃的に振る舞い優位に立つ.これは肉体的な頑強さよりも,生まれ た順番や齢の影響がより重要であることを示唆しているように思われる.そこで,私 たちは羽化したばかりのワーカーの繁殖可能時間に注目した包括適応度モデルを作っ た.次のような仮定の下に解析した.
(1)αからヘルパー,もしくはヘルパーからαへは1回しか変化しない.
(2)コロニーの崩壊の時期は知っている.
(3)αワーカーしか産卵できない.劣位のワーカーは産卵できない.
(4)αが交代したらコロニー全体に一定のコスト(繁殖可能な時間が減る)と,新αへの コスト(産子能力が落ちる)がかかる.
(5)女王とαはかならず存在する.