バクテリアの化学走性に関する情報伝達回路の数理的解析

望月敦史(九大・院理・生物・数理生物)

1月11日 (火) 午後1:30から
理学部3号館 6階  数理生物学セミナー室


大腸菌などのバクテリアは環境中の化学物質の微小な濃度変化に反応して運動性(鞭 毛モーターの回転方向転換率)を変化させる化学走性を持つが、変化後の物質濃度が そのまま保たれているような場合には、やがて元の運動性が回復する。このような環 境変化に対する順応(adaptation)は、物質のレセプターから鞭毛モーターへとシグナ ルを伝達するネットワークにより実現されていると考えられる。Leiblerら(Nature 3 87: pp913, 1997)は、このシグナル伝達回路に対して数理モデルを作り、モデルに含 まれる化学反応速度値(パラメータの値)を様々に変化させても、この様な順応が普 遍的に見られること(robustness)を示した。ここでは、同様の数理モデルをとりあげ、 robustnessが実現される為の条件を考える。モデルを簡略化し平衡状態を求めること により、個々のパラメータ値を変化させても系の出力を変化させない条件を決めるこ とができる。系に含まれるパラメータは多数あるが、それらの幾つかがある条件を満 たす時には他の多くのパラメータを動かしても平衡状態での出力がほとんど変化しな いことが分かった。最後に、Leiblerらの結果がモデルの特殊な性質に依存している 可能性を指摘し、上記の方法が他の代謝経路にも応用できる可能性を示す。