DDT の絶滅リスク
ーセグロカモメの生態濃縮を例にー

中丸麻由子(科学技術振興事業団 CREST 研究員)

1月18日 (火) 午後1:30から
理学部3号館 6階  数理生物学セミナー室


 化学毒性物質に暴露されている野生集団の絶滅リスクの新しい推定方法を提案する. 例としてDDT(p, p'-Dichlorodiphenyltrichloroethane)とその派生物質(総称して 総DDT)に暴露されていたニューヨーク州ロングアイランドのセグロカモメ(Larus A rgentatus)の絶滅リスクを計算する.セグロカモメは食物網の頂点なので生態濃縮 を起こして高濃度の 総DDT が体内に蓄積されていた.カノニカルモデルから期待存 続時間を推定する.内的自然増加率 r は急速に増殖している集団の倍加時間から推 定する.環境変動の強さ sigma_e は集団サイズ変動から求める.生態濃縮係数や 総 DDT の暴露による出産率の低下を考慮した齢構成行列モデルをもとにして、さまざま な環境中 総DDT 濃度でのセグロカモメの期待存続時間の減少を推定した.「リスク 当量」を、ある化学物質による暴露量について、期待存続時間の減少分と同じ効果を もたらす生息地の減少分と定義する.リスク当量は生態リスク評価や化学毒性管理に おいてとても有用である.