固着性生物のダイナミクスー種組成を決定する要因は何か

向 草世香(九大・理・生物)

2月15日 (火) 午後1:30から
理学部3号館 6階  数理生物学セミナー室


 1998年、沖縄地方のサンゴ群集は高水温に伴う白化現象により壊滅的打撃を受 けた。幼生の加入、着底個体の成長、死亡を通じてサンゴ群集が回復する過程で群集 の種組成を決定する要因を議論するために、生活史の異なる2タイプの被度のダイナ ミクスをモデル化した。固着性生物は生息空間を巡って競争する。そこで、浮遊幼生 の加入量は生息地の空き面積に比例するとした。さらに、接触した個体は相手に覆い 被さることなく成長を止めると考え、着底個体の成長による被度の増加率は空き面積 が減るにつれて小さくなると仮定した。
 平衡状態での被度、及び各タイプの相対頻度が、着底、成長、死亡の3つのプロセ スにどのように依存しているのかを知るために、以下のような例について解析を行った。
 [1] 死亡率が小さい場合: 各タイプの相対頻度の軌跡は大きく2つの位相に分 けることが出来る。回復初期は着底、及び個体の成長によりスペースがすぐに埋めら れ、見かけの平衡点に到達する(fast dynamics)。しかし空き面積の減少に伴い着 底、成長が抑制されると、死亡率の低いタイプへと徐々に置き換わっていく(slow d ynamics)。平衡状態は3つのプロセスが複合的に作用する。
 [2] 死亡率が大きいor成長率が小さいor着底率が大きい場合: この3つの条件 下では成長率の影響を無視することができ、相対頻度は着底率と死亡率の比で与えら れる。しかし被度は大きく異なり、死亡率が大きいときは低く、成長率が小さいとき は中間値、着底率が大きいときは高い値に収束する。
 [3] 着底率が小さい場合: 成長率*寿命が大きいタイプがその場所を占拠し、 2タイプは共存できない。もしどちらのタイプでも死亡率が成長率より大きければ被 度は0のままであり、群集は回復することがない。
 以上のような結果をもとに、サンゴ群集で見られる礁池内の樹枝状サンゴ優占、礁 縁付近のテーブル状サンゴ優占の形成要因を議論する。