概日時計の理論的研究

黒沢 元(九大・理・生物)

10月31日 (火) 午後1:30から
理学部3号館 6階  数理生物学セミナー室




 ショウジョウバエの行動に見られる概日リズムは、細胞内の特定のタンパク質のフ ィードバック抑制に基づくダイナミックな変化に還元できることが明らかにされつつ ある。Leloup and Goldbeter (1998)はこの機構についていくつかの数理モデルを提 案し、それらについて数値シミュレーションを行った。彼らはPER-TIMダイマーがpertimそれぞれの転写の抑制をしているとしたモデルの方がPERのフィードバックルー プだけからなるモデルより安定な振動を形成できるパラメーターの組が多いという結 果を得て、前者の方が振動を形成し易いモデルだとした。本研究では異なる仮定に基 づく3つの数理モデルについて、振動が起きるための条件をそれぞれ数学的に求め、 比較した。ここで、タンパク質の自己転写抑制における非線形性の強さを、「協同性 」と呼ぶパラメータで表す。3つのモデルすべてにおいて、協同性が大きいほど定常 解の安定性は壊れやすく、振動解が起こりやすいことを一般的に示した。そしてper- mRNA、細胞質PER、核内のPERを考えた「基本モデル」に比べて、PERが核に入る前に 修飾を受けるとした「修飾モデル」の方が、より小さい協同性で振動解を生成すると いう結果を得た。またPERに加えてTIMのダイナミクスを考えた「二量体モデル」では 、他のモデルよりも小さい協同性で振動解が生成されることが分かった。以上の結果 から、PERタンパク質の修飾および複合体の形成という過程が、周期的振動の形成に おいて重要であると考えられる。