病原体系統と寄主植物抵抗性品種の共進化



現在、イネのいもち病の対する抵抗性には、多数(少なくとも9種類)の特異的抵抗性遺伝子が関与している。それらの遺伝子型は病原体の非病原性遺伝子(エリシター遺伝子)との1対1の対応関係を持っている。また、抵抗性品種に感染できる病原性系統は、エリシター分子の発現を停止するノックダウン変異体である。
本研究では、複数の対立遺伝子座における寄主植物(感受性と抵抗性)と病原菌(病原性と非病原性)の動態を解析する。また、病原体の多重抵抗性を進化を許さない条件や病原菌根絶条件についても調べる。さらに、抵抗性遺伝子座数を増やすことによって病原体の対抗進化を未然に防ぐ防除が可能になるかどうかを理論的に検討する。これによって複数の抵抗品種の混植によって抵抗品種に対する病原性系統進化の被害を防ぐというマルチライン効果の有効性を見積もる。

遺伝子対遺伝子説(gene-for-gene system)


physrum result 植物の病原菌抵抗性遺伝子と病原菌の病原性遺伝子の1対1の特異的対応関係が存在しgene-for-gene system(Flor 1956)と呼ばれている。また、抵抗性品種に感染できる病原性系統は、エリシター分子の発現を停止するノックダウン変異体である。イネのいもち病抵抗性には多数の特異的抵抗性遺伝子が関与し、いもち病病原菌の系統(レース)との間にgene-for-gene systemが成り立っている。本研究では、従来の疫学モデル(SIモデル)にgene-for-gene systemを取り入れ、複数の対立遺伝子座における寄主植物(感受性と抵抗性)と病原菌(病原性と非病原性)の個体群動態を解析した。

遺伝子対遺伝子説(gene-for-gene system)


physrum result 従来の疫学モデルでは、感受性ホストの初期密度が病気流行閾値より低ければ病気が流行しないという結論が導かれている。そこで、寄主植物の初期密度もしくは感受性品種と抵抗性品種の作付け比率を病原菌流行に対する戦略とし、病害を最小限に食い止め収量(未感染ホストの総数)を最大にする最適戦略について調べた。その結果、病害を最小にする感受性品種と抵抗性品種の最適導入率が存在することがわかった。これは、2種の病原体の流行閾値と関係している。抵抗性品種の導入割合が非常に低く寄主植物の初期密度の殆どを感受性品種が占めている状況では、抵抗性品種の密度が低いため非病原性病原体の流行を防ぐことができず、収量を上げることができない。また、抵抗性品種の導入割合が非常に高い状況は病原性の病原体の流行による収量の著しい低下を招く。このことから、病原性病原体の流行閾値に一致した最適抵抗性品種導入率が存在することがわかる。また、この最適比率は解析によって求めることができ、病原体の基本増殖率R0の逆数に一致することがわかった。つまり、病原体の基本増殖率を測定することによって具体的な作付け戦略を提示することが可能である。






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