亜熱帯性ドクチョウHeliconius eratoとH. melpomeneは、南アメリカ北部の広範囲に生息する。2種はミュラー型擬態をしており、同じ模様を持つものが捕食者へ学習されやすく有利なため、ひとつの翅パターンに収斂されると予想されるが,実際には多彩な翅パターンが維持されている。地理分布はモザイク状で、同じ地域では2種の翅パターンが酷似する。
 本研究では、翅模様の地理分布境界の挙動を調べ、模様の多型が安定に維持される条件を理論的に解析した。ミュラー型擬態による正の頻度依存淘汰と個体の移動分散を取り入れたモデルで翅模様を決定する対立遺伝子が空間上どのように広がるかを拡散方程式で記述し、翅模様決定対立遺伝子頻度のクラインの動きを界面ダイナミクスと呼ばれる数学的手法で調べた。その結果2種の翅模様が似ると境界移動速度が非常に遅くなるが、1様空間上では最終的に1種類に収斂することが示された。密度、移住率、有利さなどが場所ごとに変動すると、翅模様の地理的モザイクが安定に維持できることが証明された。

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