分子生物学的手法の発達により、様々な病原体ゲノムの配列が同定され、それをもとに系統樹が作成されるようになった。一方でそれぞれの病原体の、感染率、回復率、病毒性等の疫学パラメーターの違いは、病原体の進化動態にも影響し、病原体疑種分布に影響すると考えられる。しかし、疫学パラメーターと系統樹との関係を調べた研究はまったくされていない。  本研究では、系統の進化及び系統間の交差免疫を考慮に入れた多系統疫学動態モデルを構築し、疫学パラメーターと系統樹との相関を調べた。個体ベースのシミュレーションから得られる系統樹(下図)を、Tajima's Dなどの統計量を用いて解析した結果、病毒性が高い時、または病原体系統間の干渉がある時、病原体系統樹は主枝からの分岐が少ない「インフルエンザ型」になる傾向が得られた。また、系統樹のトポロジーは回復率にほとんど依存しないことがわかった。


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