Last update: 06/7/14
研究紹介

私の専門は数理生物学です。それって何?とよく質問されますが、数学を用いて生命現象を研究する理論生物学の一分野です。特に以下の三つを研究しています。
  1. 進化ゲーム理論(evolutionary game theory)
  2. 協力行動の進化(evolution of cooperation)
  3. 動物行動の理論モデル(theoretical models of animal behavior)

1 進化ゲーム理論

通常、進化ゲーム理論は「無限で」「完全に混合した(well-mixed)」集団を仮定します。ところがこの「無限性」の仮定を除くと予期せぬ結果が起こることが分かって来ました。集団サイズをN(有限)としA, Bの2つの純戦略からなる、利得行列が次で与えられる2x2ゲームを考えます。

1個体の戦略AがN-1個体の戦略Bの集団に侵入した時、最終的に全員が戦略Aの個体に取って代わる確率rho_Aを固定確率(fixation probability)と呼びます。

AとBの間でゲームがなければrho_A=1/Nなので、rho_Aがこの値より高いかどうかが、Aが適応的か否かを決める閾値です。Nowak et al.(2004)は

が戦略Aの適応進化条件であることを見いだしました。

私はさらに「完全に混合した(well-mixed)」という仮定を取り除くと何が起こるか調べました。この場合、集団の構造は連結な有限グラフで与えられます。

その結果、次数kの正則グラフ(各頂点からk本の辺が出ているグラフ)上で戦略Aが適応進化できるための条件は

であることを発見しました(Ohtsuki et al. (2006) Nature 441, 502-505)。この結果を次の囚人のジレンマゲーム(Prisoner's Dilemma game)

に適用すると、次数kのグラフ上での協力行動の進化条件が

であることが直ちに分かります。すなわち協力の利益とコストの比が隣人数を上回る時、協力は進化するのです。
2 協力の進化

コストを支払って相手に利益を与える利他行動の進化は、今なお進化生物学の主要な問題の一つです。Hamilton(1964)の血縁淘汰(kin selection)理論は、血縁個体間の協力行動をうまく説明します。また、Trivers(1971)の互恵的利他行動(reciprocal altruism=direct reciprocity)の理論は、非血縁個体間でも相互作用が繰り返し行われれば協力が進化できることを提起し、それは有名なしっぺ返し戦略(TFT: Tit-For-Tat strategy)の研究で理論的にも裏付けられました。

では非血縁個体間でしかも繰り返しのない1回きりの相互作用ではどうでしょう?例えばネットオークションはその例です。取引の相手は自分の親戚ではありませんし、また同じ人と再度取引をすることは稀です。

間接互恵性(indirect reciprocity)とは「評判」(reputation)を通じて協力行動が他者へと受け渡され維持される仕組みを指します。評判の良い人には皆協力し、評判の悪い人には協力しません。ネットオークションに「出品者の評価」があるのはこの為です。協力的でない人は評判を通して排除されるという巧い仕組みです。

私は間接互恵性における規範の進化について理論的に研究しました。規範(norm)とは、誰を良い人とみなし、誰を悪い人とみなすかのルールです。一番簡単に思いつくのは「協力した人を良い人、協力しなかった人を悪い人」とみなす規範です。これはscoringと呼ばれます(Nowak&Sigmund 1998)。しかし、驚くべきことにこの規範の下では協力行動は進化できないのです。

仮にAさんは他人に協力しない「悪い」人だとします。これを知ったBさんはAさんへの協力を拒否します。ところがBさんは動機はともあれやはり「協力しなかった」わけなので、scoringのもとでは「悪い人」というレッテルを貼られてしまいます。ここにscoringの欠陥があります。

私は「良い人が悪い人に協力しなかった場合、その人は良い人のままでいられる」(なぜなら悪い人を罰したのだから)という要素が規範にないと、間接互恵性が進化できないことをESS解析により理論的に示しました。そして、"leading eight"と呼ばれる最高レベルの協力を安定に引き出すことのできる8種類の規範を発見しました(Ohtsuki&Iwasa (2004) Journal of Theoretical Biology 231, 107-120)。

3 動物行動の理論モデル

現在、以下を研究中です。
膜翅目におけるworker policingの進化(with Tsuji, K.)
ワーカーが妊性を保ち雄卵を産生できる種に置いては、女王とワーカーの間に雄卵の母性を巡るコンフリクトが必然的に存在する。血縁理論は女王が2回交尾以上の場合ワーカーによる他ワーカー卵の妨害(worker policing)を予測するが、女王が1回交尾の場合でもworker policingは数多く報告されており説明がつかない。生活史戦略という観点からこの問題を捉え直し、動的ゲームモデルを用いてworker policingの進化の謎を説明する。
闘争における見極め時間の理論的解析(with Uehara, T. & Iwasa, Y.)
多くの動物間の闘争では、実際の闘争に入る前にディスプレイを含む儀礼的闘争を行い相手の能力を見極める。そして争うべきか引くべきかに関しより正しい判断をすべく情報の精度を高めていると考えられる。最小限の数理モデルを通して見極め時間の進化的に安定な分布を導出し、ディスプレイの起こる条件を予測する。
階層・順位性の進化
霊長類や社会性昆虫の社会には階層が多く見られる。時にそれは厳密な直線順位であり、また時にはピラミッド式な離散階層である。また順位の母系による継承、末子優位、同盟、連合など、理論的に未解明な部分が多い。進化ゲーム理論を用いて階層性の創発および安定性の条件を探る。

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