抵抗性と病原性の軍拡競争

佐々木 顕(九州大学大学院理学研究院)


コメやコムギの栽培の歴史は、これらに感染する病原性菌類との戦いの歴史でもあった。これまで数多くの抵抗品種が開発されてきたが、抵抗性品種をいくら導入しても、やがては抵抗性植物に感染できる病原体の突然変異体が出現して流行を引き起してきた。

植物の病原体に対する抵抗性は「遺伝子=遺伝子相互作用」と呼ばれるシステムに支配されている。植物の抵抗性遺伝子と、それを打ち破る病原体の病原性遺伝子との間に1対1の対応関係があるのだ。

この抵抗性と病原性の進化を数理モデルで解析すると、抵抗性遺伝子の頻度と病原性遺伝子の頻度が共進化サイクルを描くことが分かる--(1) 抵抗性の植物が増えると、病原体集団の中に抵抗性を無効にする病原性遺伝子が広がる。(2)抵抗性が効かなくなると、コストの少ない感受性の植物がむしろ有利になる。(3)感受性の植物が多数派になると、病原性遺伝子は不要になり、コストのため遺伝子頻度が減少する。(4)これが、植物の抵抗性を再び有利にする。こうして植物と病原体の状態は(1)に戻り、共進化サイクルが繰り返される。

抵抗性と病原性の共進化--抵抗性遺伝子頻度の空間分布。 100x100の地域個体群が格子状に配置されている。抵抗性の遺伝子がほとんど存在しない領域(紫)のなかに、抵抗性遺伝子頻度の高い個体群(黄色〜赤)がリング状に連なっている。


図は格子状に並んだ100x100の地域集団間に移住による交流があるとき、抵抗性と病原性の共進化が織りなす時間的空間的パタンを示している。各地域個体群の遺伝子頻度の振動がリング状の波となって空間を伝播し、他の地点で生成され伝播してきた波と衝突し消滅する様がみえる。地域集団の遺伝子頻度の振動は互いに位相をずらそうとする力が働き、これが集団全体で安定した遺伝的多型を維持することなどを示すことができる。このモデルを多遺伝子座の系に拡張することにより、クローン多様性の地理的分布や、有性生殖の進化の問題にも取り組んでいる。



参考文献
・Sasaki, A. & Godfray, H.C.J. (1999): A model for the coevolution of resistance and virulence in coupled host-parasitoid interactions. Proc.R. Soc. Lond. B 266: 455-463.

・Sasaki, A. 2000. Host-parasite coevolution in multilocus gene-for-gene system. Proc. R. Soc. Lond. B 267: 2183-2188.

・佐々木顕. 2001. 空間非同調の生態学:ホストパラサイト共進化系を中心に. 日本生態学会誌 50: 85-96.

・Sasaki, A., W.D. Hamilton and F. Ubeda. Clone mixture and a pacemaker: new facets of Red-Queen theory and ecology. Proc. R. Soc. Lond. B (in press)




[九州大学理学部生物学科パンフレット「生物学への誘い」 -- 数理生物学講座]


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