拙著『商人道ノスヽメ』の進化動学に向けて
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拙著『商人道ノスヽメ』では、主に山岸俊男の社会実験・調査に基づく社会システムの二分論と、ジェイコブズの倫理二分論をつなげ、社会関係の二大システム──固定的関係と流動的関係──には、それぞれと整合する倫理体系──固定的関係⇒武士道型倫理、流動的関係⇒商人道型倫理──があり、両者は互いに矛盾すると論じた。 すべての人間社会では、固定的/流動的関係が並存しているので、倫理体系もまた、時代や国にかかわらず、武士道型/商人道型が矛盾しながら並存している。しかし、各社会システムの中ではそれと整合する倫理で振る舞わないと腐敗するので、両関係の比率と両倫理の比率が食い違うと機能不全が起こる。 旧来の日本の社会経済システムは、比較的固定的関係がメジャーなものだったので、それに対応して武士道型倫理がメジャーになってきた。しかし、グローバル化と市場化の進展の中で、社会経済システムは流動的関係がメジャーなものに変わってきているので、倫理も対応して商人道型倫理がメジャーなものに変わらなければならない。しかし、現実には依然武士道型がメジャーなので、そのギャップから困難な問題が生じていると考えられる。 拙著では、この倫理転換が不可能な課題ではないことを強調するために、日本の江戸時代に確かに存在していた商人道倫理を紹介している。さらに、戦後の日本でもマイナーに抑えられてはいても商人道倫理は無意識のうちに存在していて、復興と発展を支えるエートスとなっていたと主張している。 巌佐先生たちは、人々に対する評判の付け方(規範)のいかんによって、協力的な行動原理が進化的安定になるかどうかを考察するモデル分析をされている。今次研修では、同様の分析によって「規範」自体の進化を検討し、拙著の考察を根拠づけたい。人間関係の固定性、流動性に対応したパラメータのいかんによって、協力的行動をもたらす規範均衡に、武士道型のものと商人道型のものとが発生し、パラメータが中間的な場合には、両者の複数均衡が発生することが示せればよい。 |
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