生息地破壊を入れたメタ個体群動態モデル

佐藤 一憲(静岡大・システム工学)

02/01/10, 10:00- at Room No.3631 (6th floor of the 3rd building of the Faculty of Sciences)



 近年,地球環境問題が社会的に大きく取り上げられるようになって,保全生態学が 希少な生物種の保全に果たす役割は極めて重要である.たとえば,現状を維持する場 合や環境を改善・改悪する場合について,個体群が絶滅するまでの待ち時間や維持さ れる個体群密度を理論的に示すことは,保全策を講じるときのひとつの拠り所となる だろう.

 今回の講演では,まず, 確率論的 Levins モデル (確率論的ロジスティックモデ ル) に対して,全パッチサイズが十分に大きい場合について,個体群が絶滅するまで の待ち時間の期待値について解析的な評価を与え,さらに,生息地破壊の導入による 個体群の絶滅待ち時間への影響を示す(佐藤& 清水, 2001).

 次に,全体的な生息地の破壊が同程度の規模で起こったとして,その空間的な形状 が異なる場合に,維持される個体群密度の相異を明らかにする.離散的な空間構造の 入った格子モデルについて,pair approximation metapopulation capacity の方法 で解析をおこない,どちらの場合でも,固めて大きな破壊が起こった方が個体群は存 続しやすいという結果が得られた.これは,従来の他のモデルでも示唆された結果と 定性的には同じであるが,計算機シミュレーションよりも見通しの良い,理論的な解 析が可能であることを示している(Ovaskainen et al., in press).