樹木の一斉開花結実現象を生みだすダイナミックスを探る数理的研究

佐竹 暁子(九大・院・生物)

02/01/16, 16:00- at Room No.3521 (5th floor of the 3rd building of the Faculty of Sciences)



 多くの樹木は種子生産量が大きく年変動し、また遠く離れた樹木間で同調して種子 を作りだすことが知られている。この一斉開花結実現象は、主に適応的観点(同調し た繁殖の適応上の利点)から研究されてきた。

 本発表では、異なる樹木が同調して繁殖する機構を、花粉制約による結合マップモ デルを用いて解析する。各樹木は毎年の光合成によりエネルギーを蓄積し、それが閾 値を超えると超過産物を用いて開花、続いて花の受粉量に応じた結実を行い、結果と して蓄積エネルギー量の減少を経験すると仮定する。

 花粉が森林全体に散布される場合(グローバルな花粉散布)について、定常分布、 周期解の解析を行った結果、エネルギー減少係数と花粉制約の強さに依存して、 [1]一定繁殖相、[2]非同調相、[3]クラスタ形成相、[4]同調カオス的変動相、[5]同 調周期的変動相、の5つの相を特定した。さらにリアプノフスペクトルの解析によっ て同調繁殖が安定となるためには、豊作年と凶作年に加えて、開花はするものの結実 レベルが低い年が必要であることが証明された。

 花粉散布が親木の周辺に制約される場合(ローカルな花粉散布)について、時空 間共分散解析を行った結果、花粉の散布距離よりも数桁も広い範囲に渡る同調繁殖が 生じることが示された。またグローバルな花粉散布の場合と異なり、他個体と完全に 同調した種子生産はみられずローカルな空間パターンが常に残り、その相関距離は花 粉散布距離とともに増大することがわかった。

 結合マップモデルに、光合成量や繁殖閾値の確率的な変動を加え種子量の空間相関 解析を行うと、共通した確率的変動だけでは長距離の同調した種子生産は実現されな いが、花粉結合と確率的変動が同時に働くと、強い同調繁殖が実現されることがわか った。この結論は、グローバルとローカルな花粉散布の両方について当てはまる。