防御タンパクを前もって貯蔵するか、感染後に新規合成するか

首藤 絵美(九大・院・生物)

02/03/07, 13:30- at Room No.3631 (6th floor of the 3rd building of the Faculty of Sciences)



 病原体に感染されたホストの体内では、防御に関わるさまざまタンパクが合成され る。それらを感染後に遺伝子発現をして合成する場合、活性型のタンパクを得るには 数時間から数日の遅れが必要である。それに対し、防御タンパクの前駆体(不活性な 状態)をあらかじめ貯蔵しておけば、感染後にそれを活性化しさえすればよいので、 速やかに(数分で)活性型タンパクを合成できる。  防御応答には、防御タンパクをつくるエネルギーが必要であり、また活性化したタ ンパクが病原体だけでなく自分自身を傷つけてしまう害(防御のコスト)もある。こ れらを考慮してホストにとっての最適応答を考えた。防御戦略は、次の3つの手段の 組合せである。

[1]防御タンパクをあらかじめ貯蔵

[2]感染を受けたときに貯蔵の一部もしくは全てを活性化

[3]感染後に遺伝子発現をして新規合成。

最適応答とは、トータルコストを最小化する戦略であり、病原体によるダメージと防 御のコストの和で定義する。感染前には、実際に来るであろう感染の量をホストは正 確に知ることが出来ない。ホストは、感染量の情報(確率分布)をもとに貯蔵タンパ クの量を決定する。確率分布の分散が情報の不確定性に相当する。貯蔵を中途半端に 活性化して新規合成することは最適にはなりえない。

 情報が正確な場合、貯蔵タンパクはすべて活性化される。しかし不確定性がある場 合には、貯蔵の一部しか活性化されないことも最適になりうる。感染量が少ないなら ばホストは必要なタンパクすべてを新規合成する、多い場合は全てを貯蔵しておく、 中程度の場合にはそれらを併用することがそれぞれ最適である。防御タンパクの貯蔵 コストが低いならば、ホストは防御タンパクを貯蔵する方がよい。それに対し、生産 や活性化のコストが低いならば、最適貯蔵量は感染量によって大きく変化することが わかった。感染量の情報に不確定性がある場合には、情報が正確な場合に比べて貯蔵 量が少なくなることがわかった。