松田 裕之 (九大・理・生物)
今年、世界自然保護連合(IUCN)の新基準に基づく絶滅危険種(Red Data List )が海産魚類でも列挙され、ミナミマグロ、西大西洋クロマグロ、南太平洋ビンナガ マグロが危機的絶滅寸前(危篤)と勧告された。たしかにこれらマグロ類の減少は深 刻だが、絶滅の恐れがあるのだろうか?この勧告の根拠の妥当性を個体群生態学的に 吟味する。(1) IUCNの基準Aでは、過去3世代の親の減少率が80%以上の種を危篤 とみなし、基準Eでは向こう3世代の間に絶滅する確率が50%以上の種を危篤とみな す。しかし絶滅確率は現存個体数、減少率の平均と分散に依る。この2つの基準が同 じ程度になる現存個体数は2500個体程度であり、40万尾いるミナミマグロに基準Aを 適用するのは誤りである。(2)漁業資源の絶滅危機を評価するため、現在までの減少 率で最小有効個体数(500個体とする)まで減る確率を絶滅危機の指標とする。(3) 齢別年別漁獲統計(VPA)により推定したミナミマグロ成魚資源尾数の30年間の変動 から、その年変動率の対数の平均と分散を求め、絶滅危機を試算したところ、過去30 年間(約3世代)の平均減少率は7.2% / 年であり、近年行われている漁業管理の効 果を入れずにこの減少傾向が今後も続くと仮定すると、3世代後の絶滅危機は10^-14 2でほとんど無視できるが、100年後の絶滅危機は99%と試算され、危急種と判定され る恐れがある。今後も資源管理は極めて重要である。これは矢原徹一氏(九大理)・魚住雄二氏(遠洋水研)との共同研究である。