持続可能な漁業と人類の未来

松田 裕之 (九大・理・生物)

10月9日 (水) 午後1時30分より
理学部3号館 5階 3521 生物学教室会議室にて


21世紀に人類が問われているのは、持続可能性である。持続可能な漁業は生物多様性の保全とともにその中心課題の一つである。九大を去るにあたり、そのために何が必要か、数理生物学に何ができるか、私見を述べたい。
1)非平衡生物資源の利用:マイワシなどのプランクトン食浮魚類は、安定せずに長周期で大きく変動する。したがって、非平衡生物資源を利用する漁獲方針を確立することが問われており、私が提唱した3すくみ説などの変動仮説によれば、国連海洋法条約で定められる適正漁獲量も年変動することを前提にすべきである。現在は、マサバの漁獲は控えるべきであり、サンマは漁獲割当量を増やすべきである。
2)生態系打撃評価:漁業が生態系に与える打撃(impact)は二つの尺度で評価すべきである。一つは持続可能な漁業に与える打撃。もう一つは漁獲対象魚種またはそれと相互作用する種の絶滅確率を高める打撃である。私たちが提唱した収穫価の概念を用いてこれら2種類の打撃を一定以下に抑えながら漁獲量の最大化を議論する方法を提案する。
3)3つの総量規制:21世紀を迎え、我々は人口増加率と二酸化炭素排出量を抑制する必要があると言われている。それに加え、私は一人当たりカロリー摂取量を抑制する必要があると考える。飽食の時代と言われる昨今、人類の1/3が飢えていると言われる今日、明日の食料危機が叫ばれる中で、先進国のカロリー摂取量の抑制は人類の義務である。ただし、何を食べるかで単位カロリーの食料を生産する際の生態系打撃は異なる。これを正当に評価する手法を開発することも、今後の課題である。