格子上での大腸菌の他感作用: コリシン生産性菌とコリシン感受性菌の競争について

中丸 麻由子 (九大・理・生物)

10月15日 (水) 午後1時30分より
理学部3号館 5階 3521 生物学教室会議室にて


ある大腸菌はコリシンという毒を作るプラスミドを持っており、コリシン生 産性菌という。この菌はコリシン耐性である。コリシン生産性菌はコリシンをまくこ とで周囲のコリシン感受性菌を殺し、その後に自分の子孫を増殖させる。しかしコリ シンを生産することはコストがかかり、感受性菌と比べて増殖率は低くなってしまう 。コリシンの毒性の強さとコストを変化させたときの、コリシン生産性菌と感受性菌 、空白の3状態のダイナミクスを調べた。

空間構造のないモデル(完全混合モデル)については既に研究されており次 のことが分かっている。(1)共存は起こらない(2)コストのあまりかからない時 には、初期頻度によって最終的にどのタイプが集団を占めるのか決まる(3)コリシ ン感受性菌は常に進化的に安定である。空間構造がある時(格子モデル)については 、大きな格子上でのコンピュータシミュレーションによる解析結果が得られている。 それによると、(1)共存はなく、(2)初期頻度依存しない(3)コリシン感受性 菌、生産性菌とも進化的に安定となる条件が厳しくなる。

発表者はペア近似という数学的手法を用いて格子上でのダイナミクスを解析 した。結果はシミュレーション結果とほぼ同じだが、コリシン感受性菌が最終的に占 める条件とコリシン生産性菌が占める条件との境界で初期値依存が見られた。これは 先行する大きな空間構造でのシミュレーション結果とは一致しない。しかし、発表者 のおこなった小さな空間でのコンピュータシミュレーションでは、ペア近似と同様に 境界が初期値依存が見られた。