上野 高敏 (九大農学部付属生物的防除研究施設)
単位時間当たりの適応度を最大化するように採餌者が振る舞うと仮定するrate maximization modelでは、質的には採餌者の行動パターンを予測できても量的なものについては十分に説明できなかったり、行動の個体差(全く同じ条件下においてすら行動の個体変異は存在する)がなぜ生じるのかについては説明できない。このような問題が生じる背景には、各個体の生理状態、例えば日齢や保有卵数や資源量と行った、時間とともに刻々と変化する要素が考慮されていないためである。これらの要因をモデルに組み込めるdynamic programmingの手法を用いた理論的な解析がごく近年進み、これによって採餌パターンのかなり厳密な質的、量的予測が可能になったとされている。一方、実証研究の方は非常に遅れており、まだ個体の生理情態が採餌行動にどの程度影響するのかについて十分なデータは得られていない。さらに個体の生理状態と外的な環境要因、例えば寄主密度や寄主の質、とがどのような相互作用を持って行動に影響しているのかについてはまったくわかっていない。今回は単寄生蜂の寄主受け入れ意思決定に雌蜂の生理状態、特に保有卵数と保有資源量がどのように影響しているのかを実験的に明らかにしていく。さらに雌蜂の生理状態と環境要因との相互作用についても明らかにする。そしてこれまでの理論的研究とどれだけ整合性があるのか?またなにが従来のモデルにかけているのかについて議論したい。Key words:
parasitoids, behavioral decisions, state variable model, host selection, maternal state, foraging theory, host-feeding, egg load,experience.