真性粘菌変形体における収縮リズムのパターン形成
中垣俊之 , 山田裕康 (理化学研究所,バイオ・ミメティックコントロール研究センター)
10月6日 (火) 午後 3 時00分より
真性粘菌の変形体は多核単細胞生物であり、脳のような中央情報処理器官をもたない
。それにもかかわらず粘菌は統率のとれたアメーバ運動をして的確に行動できる、な
かなかあなどれない生物である。粘菌は細胞内のあらゆる部分で周期的収縮運動をな
し、それにより静水圧差を得て原形質流動を起こし、細胞体は移動する。このとき細
胞形態は著しく変化する。粘菌の構造は外側のゲル層(応力を発生する)と内側のゾル
層(流動する)からなり、両者は変換しあいながら巨視的な形態``原形質流路ネットワ
ーク''を形成する。振動パターンからネットワーク形成、パターン形成の階層間相互
作用からさらに行動の発現へとつながる粘菌システムの自己組織化の構造を検討する
。従来、粘菌の収縮弛緩振動の数理モデルとして、結合振動子系や振動性反応拡散系
が用いられている。
同期現象や位相勾配形成などの結果がこのモデルから得られており、近年はさらに細
胞行動を探る研究もはじまっている。これに対し我々は、原形質流動の効果を考慮し
た反応拡散移流モデルを提案した。我々のモデルは生体内の代謝振動子が拡散と流動
という輸送現象によって結合している点に注目して構成されている。このモデルをも
とに、ネットワーク形成のダイナミクスを議論してゆきたい。
セミナーの前半は中垣が粘菌の行動発現に関する実験を、後半は山田が反応拡散移流
モデルの解析について報告する。