DDT の生態系への影響とマラリアを防ぐ効果を
どのように定量的に評価するか?

中丸麻由子(科学技術振興事業団、CREST 研究員)

6月 10日 (木) 午後1:30から
理学部3号館 6階 3631 数理生物学セミナー室


 
 化学物質の生態系への影響が問題になっているが、使用するかしないかの判断は
一筋縄にいかない。蚊などの殺虫剤のDDTを考えよう。DDT は急性毒性はないが、
環境への残留性は高く、生態濃縮も生じる。その結果食物網の頂点である鳥に高濃
度のDDT が蓄積して、個体数が顕著に減少した。五大湖のBald EagleはDDTによっ
て卵の殻が薄化したのは有名である。その結果アメリカは1972 年に全面使用禁止
した。
一方、アフリカ、アジア、中南アメリカでは蚊を媒介としたマラリア感染が深刻
な問題になっている。蚊の発生を防ぐために(安価であることもあって)DDT を使
用している。1967年にセイロンで使用禁止にしたところ感染者が百万人の単位で増
加したため、使用再開した。
以上により、DDT の生態への影響(生態リスク)と健康への影響(健康リスク)
をどう評価するべきか?そこでDDT使用費用と生物の絶滅確率の増加分、病気の発
生防止による利益(救われる人の数)などを測り、リスク/ベネフィット解析をす
る。そして、生態リスクと健康リスクのトレードオフを考える。加えて、DDT の代
替手段についても同様の計算をして、化学物質使用を総合的に評価していかなけれ
ばならない。
今回のセミナーではまず研究のバックグランドを説明した後、生態リスクについて
(1)DDTによるreproductive rateの減少、生態濃縮等について、アメリカ
   1960年代前後のデータの紹介
(2)生態リスクの指標について
(3)使用するデータと解析方法、必要なデータ
を説明する。今後の研究方針について議論したい。