土居雅広(科学技術庁放射線医学総合研究所・比較環境影響研究グループ)
9月17日 (金) 午後2:00から
理学部3号館 6階 3631 数理生物学セミナー室
微生物を用いた実験モデル生態系は、構成する生物種のサイズが小さいこと、世代時
間が短い(数時間)ことから、実験的に閉鎖生態系を構築し、各微生物の有限個体群
の動態や世代間の遺伝子頻度(浮動、淘汰)を観察するのに適した実験生態系である。
ここでは、試験管内に10mLの水と基質(ペプトンおよび無機栄養塩)と共に生産者
(光合成可能な独立栄養原生動物、Euglena)、分解者(原生動物の代謝産物・死骸
などを分解するバクテリア、大腸菌)、消費者(大腸菌を補食する従属栄養原生動物、
Tetrahymena)の3種微生物を密封した閉鎖実験生態系(川端マイクロコズム)を対象
として計算機シミュレータ(SIM-COSM)による解析を進めている。 SIM-COSMでは、「環境」を二次元格子で分画した格子モデルで扱い、分画格子間の不 均質性を統計的に推定する。又、各微生物個体を構造体(個体識別番号と当該個体の 人口学的因子データ群)として個体ベースで扱うとともに、集団として統計的に解析 することにより、個体数の変化と同時に人口学的揺らぎを推定する。 構造体が模擬する各微生物個体には、探餌・成長・死亡・移動拡散に関するアルゴリ ズムが組み込まれているが、各微生物個体は、自己の内部状態(人口学的因子データ 群)と外部状態(相互作用が及ぶ「環境」と自己以外の微生物個体)を情報としてア ルゴリズムを相対的に切り換えるようになっている。この計算機シミュレータに、環 境負荷等を擬した不確定な変化を与える計算機実験を試みることにより、空間的な不 均質によって惹起された微生物個体間の微視的多様性とローカルな相互作用系が、生 態系全体の巨視的秩序として組織化されるために必要な条件について検討する。 |