首藤 絵美(九大・理・生物)
10月19日 (木) 午後1:30から
理学部3号館 6階 数理生物学セミナー室
生物の生体防御応答には様々な様式がある。 例えば、脊椎動物の獲得免疫応答は、病原体侵入後に誘導されるが、病原体、寄生 虫の種類や量によって異なった応答が誘導される。 また、植物に於いても同様な現象が観察される。傷害や病害などのように葉に与え られるシグナルの違いによって、異なった経路でPRタンパクが合成される。 本研究では、まず防御の効果やコスト、応答開始までの時間遅れの長さに違いのあ る2つの防御オプションをホストが持っている場合、それらの最適な組合わせを考え た。ホストは、病原体、寄生虫の増殖によってダメージを受ける。一方で防御応答に よって自己組織を破壊するコストがかかる。これらの和を最小にすることがホストに とって望ましい応答であるとした。 病原体、寄生虫による傷害は病原体量の時間積分に比例するとした。防御オプショ ンは病原体の増殖率を抑える。2つの免疫システムのいずれかを使うのがよいか、も しくは両方使うのがよいかを求めた。すべてのパラメータにおいて唯一の最適解が 存在し、局所最適解は大域的に最適であることが証明できる。また病原体の初期量が 大きいときや増殖率が高いときには、効果は薄くても時間遅れの短い応答だけを起動 し、逆に病原体の侵入量が少ない時や増殖が遅いときには時間遅れが大きくても効率 の高い免疫応答を使うべきことがわかった。 この結果にもとづいて、獲得免疫応答におけるTh1系とTh2系の切り替えについての 知見を議論する. 次に、病原体の侵入以前からあらかじめ免疫応答を起動しておく定常的な防御オプ ションと、病原体の侵入ののちに応答を開始する防御オプションとの間でも同様な解 析を行った。 直観的に考えると、定常的防御は、誘導防御と比較して常に不利であるように思 われるが、定常的防御のみを使うことも最適になりうることが示された。 |