(Core Research for 
Evolutional Science
and Technology :
Risk Management
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Update: 23 Octorber, 1999

九州大学メンバー 
  • 巌佐庸(理学研究科教授) 
  • 箱山洋(現 北水研、元 CREST 研究員)
  • 中丸麻由子(CREST 研究員)

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DDT の生態リスク評価  
 ーロングアイランドのセグロカモメの生態濃縮を例にー

目次

CRESTプロジェクトの中での役割

今までの研究成果

      第1ステップ: 
      [1]できるだけ簡単なモデルを基礎として方法をつくりあげた。 
      [2]基本モデルとして、密度制御の含まれたモデルをもちいた。 
      [3]パラメータの推定方法を開発したこと。
      [4]より現実性のある状況について、どれだけの誤りがあるかを調べる。
      第2ステップ:複数集団の絶滅リスクを総合する方法を開発し、そのことでリスク/ベネフィット解析が適用できるように整備する
  絶滅リスク評価にもとづくリスク管理 
      [1]簡単なモデルにもとづいて導いた平均絶滅時間の公式は、構造のある生物集団にどのように拡張できるのか、どのように誤りをもたらすのか? 
      [2]1つの種の絶滅は、それと相互作用する多数の他の種に波及し、数種が続いて絶滅するドミノ効果が知られている。この影響をみつもる方法はあるか? 
      [3]DDT の生態リスクと健康リスクのトレードオフについて

CRESTプロジェクトの中での役割:
 本研究CRESTプロジェクトの1つ目標は、環境中の化学物質の管理に関して、生態リスクにもとづいたリスク/ベネフィット解の方法を確立することである。生態リスクとして、動物・植物の絶滅とともに生態系のエネルギーの流れ、栄養塩類や水の循環、土壌の変化、外来種の広がり、植生の変化、動物感染症の蔓延などさまざまなものが挙げられるのが普通である。しかしこれら多様な影響を列挙するだけではこれをもとに化学物質のリスク管理に結び付けるには困難がある。
  本CRESTでは、動物・植物の野外集団の絶滅をエンドポイントに選んで、その危険(リスク)を規準にして生態リスク概念を基礎付けることを試み、そのための基礎研究を展開する。つまり、化学物質の影響が動物植物の絶滅の危険を増大させる効果を見積り、またそのリスクの定量化によって化学物質の管理が可能になるように考えるものである。
  ここでは、生息地破壊、土壌の変化、などといった生態系の改変の影響は、何らかの形で動物・植物の野外集団の絶滅リスクを増大させると考えそのことを通じて評価できると考える。この目的を考えると、絶滅リスクの規準そのものも、保全生物学でよく用いられるような短時間での種の絶滅が危惧される場合だけでなく、生息地の縮小や環境の劣化の影響にもセンシテイブな絶滅リスク規準を用いる必要があるといえる。

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今までの研究成果
 第1ステップ:(化学物質への暴露がひきおこした)マルサス係数の低下から、集団の絶滅リスクの増大を推定すること。これは、基本モデルとして、ロジステイック増殖と環境揺らぎ・人口学的揺らぎを含む確率微分方程式モデルから出発し、平均絶滅時間Tを計算して、それが、低下する量によってリスク増大を見積もるという方式を提案した。(巌佐庸・箱山洋)

 上記の考え方にはいくつかの方法論上の選択が含まれている。以下にその理由を述べる。

[1]できるだけ簡単なモデルを基礎として方法をつくりあげた。
 特定の集団の絶滅リスクを測定するには、より複雑な構造を取り込んだモデルが望ましい場合がある。しかしそのようなモデルは長年にわたる生態的研究がなければつくり得ない。1つの化学物質は多くの生物種に影響を与える可能性を考えると、それらのすべてについて詳細な生態情報が得られている場合はとても少ない。そのため最小限の情報で、絶滅リスク解析が可能になるようにと考えた。簡単なモデルを用いるもう一つの理由は、一般モデルをもちいることで、絶滅リスクの増大に関して、生息地縮小の効果と生存率低下の効果が、安定な大集団と不安定な小集団とで違った効果をもたらすことなど一般的な法則性を導くことができるからである。現実的で詳細なモデルでは一般的傾向を導くことには困難がある。  しかしながらリスク評価の部分については、もし十分なデータがあるならば複雑で現実的なモデルに置き換えたとしてもそのまま用いることは可能である。 

[2]基本モデルとして、密度制御の含まれたモデルをもちいた。
 保全生物学の多くの絶滅時刻推定モデルでは、時系列の外挿という考え方に基づいて密度制御を入れないモデルに基づいて行なわれている。これは保全生物学の目的としては望ましい。しかし、現在考えているような、生息地の縮小や生存率のわずかの低下といった要因で直ぐには絶滅をひきおこさないけれども、長期の絶滅のリスクを上昇するといった状況を取り扱うことはこの方法ではできない。そのため密度制御および環境揺らぎをもちいた絶滅時間推定の新しい方法の開発が必要である。 

[3]パラメータの推定方法を開発したこと。 
 モデルのパラメータを時系列データを用いて推定する方法を確立した。ことに、時系列の短いときにも、バイアスを取り除くことと信頼区間を求めることが、モンテカルロ法によって可能になった。 

[4]より現実性のある状況について、どれだけの誤りがあるかを調べる。
 本当の集団はいくつかの部分集団にわかれているとか、齢の構成があるとか、休眠卵・休眠種子がある、競争者や共生者、寄生者、餌などの他種がいるといった構造をもつ。それぞれの場合について、簡単な構造のない集団について求められた公式をあてはめたときにどれだけの誤りをひきおこすのかを明らかにしていくことが必要である。簡単な部分集団構造についてはすでに行なったが、これをさまざまな他の構造について解析をすすめている。

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第2ステップ:  複数集団の絶滅リスクを総合する方法を開発し、そのことでリスク/ベネフィット解析が適用できるように整備する(巌佐庸・中丸麻由子)。

  保全政策を決定しようとするときに、しばしば複数の集団や種に対して異なる影響を与える政策の中でいずれが望ましいかを評価することが必要になる.すると別々の集団の絶滅リスクをまとめて全体としてのリスクを評価せねばならない.  まず、平均絶滅時間がそれぞれの集団について推定できた場合に、平均絶滅時間の逆数の和を最小にするもの、単純和を最大にするものでは、大きくことなる政策を推奨することを示す.平均絶滅時間の逆数の和を最小にする基準では、多数の集団のうちで一番絶滅しやすい集団のリスクを小さくすることを重視するため、安定で平均絶滅時間の長い集団の保全が手薄になる傾向がある.これに対して、平均絶滅時間の単純和を最大にする場合には、滅びかけている集団の保全よりも安定な大集団のリスクを重視する.  これらの基準を統一的に理解するために、より一般的なリスク規準を提唱する.それはたとえば生残集団数の期待値の(重みつき)時間積分を最大化するといった形をしている.複数集団のリスクを総合するためのこの統一的基準が推奨する最適方法は、どのような時間でのどのような条件設定での存続多様性を重視するかによって、違った基準に帰着されることをしめす.具体的には、 [1]生存した集団の多様性を測定する時間スケールが短いと平均絶滅時間の逆数の和を最小にするものが最適だが、もっと長期間での存続を最大にする場合には、対数の和を最大にするものや単純和を最大にするものになる. [2]政策は、一旦決めると変更できない場合に比べてコストなしに変更できる場合には短時間での絶滅リスクを重視する傾向をもつ. [3]1集団でも残っていればよいとする場合には、生存集団数に比例して価値があるとする場合にくらべて、安定した生息地での存続を重視する傾向がある.  また地理的遺伝変異を考慮するために、集団の間での系統樹の枝の長さの合計値を最大にする基準についても議論する. 

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絶滅リスク評価にもとづくリスク管理
 

[1] 簡単なモデルにもとづいて導いた平均絶滅時間の公式は、構造のある生物集団にどのように拡張できるのか、どのように誤りをもたらすのか?
 これは、部分集団が移住でつながった場合、齢構成がある簡単な場合など以外に、餌の動態を介した時間遅れの効果などさまざまな重要なテーマがある。集団がいくつかの生息地に分かれていて、移住によりつながっているとし、全体のメタ個体群が絶滅するまでの時間をうまく推定できるかどうかを調べる。これによって生息地の分断化や縮小による絶滅率上昇、また保護区の間の回廊のもつ効果を明らかにする。  生息地の間の環境変動の相関(同時絶滅の可能性)や移住にともなうコストを考慮し、生活史や生息地の特性ごとに、保護区域の空間配置やつながりかたの最適化を議論する。  個体の移動分散力や生態相互作用の範囲が集団全域に比べて小さい効果を格子モデルを調べる。個体が集中分布をするために、絶滅しやすくなる。また病原体が近傍に感染しやすくなる効果や病原体の侵入によって宿主が滅びる可能性がある。さらに、火事や台風などの撹乱は空間的に集中して生じるために、撹乱を受けたときの絶滅も大きい。この程度を見積もる。  齢構造・サイズ構造のある集団について時系列から絶滅率を推定する方法を確立する。植物では休眠能力や散布能力のある種子は絶滅の危険を減らすと言われるが、その効果を定量的に見積もる。とくに季節的環境におかれた場合に、齢およびサイズごとに集団を存続させるための効果に関する測定法を確立する。これは、フィッシャーの繁殖価を拡張することによって可能になる。そのことによって、保全に際してどのような年齢、もしくはサイズや社会的地位にある個体を保護することが集団の保全に効果的なのかを明らかにできる。 

[2]1つの種の絶滅は、それと相互作用する多数の他の種に波及し、数種が続いて絶滅するドミノ効果が知られている。この影響をみつもる方法はあるか?
 まずフナなどの特定の例を取り上げて調べていく。しかしこれとは別にある種が滅んだときにそれが他の種に及ぼす影響の取り扱いについては一般論の可能を試みたい。 

[3]DDT の生態リスクと健康リスクのトレードオフについて
 DDT は農薬で、蚊などの殺虫剤としても用いられ蚊を媒介としたマラリアの感染を防ぐ。しかし、残留率が高く発ガンリスクがあることから、生態系や人間に害があるものとして先進国では禁止されつつある。生態系への影響として例えば、アメリカ合衆国の五大湖の鳥の卵のからが柔らかくなり雛が孵らなくなったのは DDT が原因とも言われている。また、最近では内分泌撹乱物質として注目をあびている。代替品として残留しない農薬である有機リン系農薬が使われているが、DDT よりも急性毒性が強くて危険である事が分かっている。
 しかし、発展途上国では蚊を媒介としたマラリアによる死亡は後をたたず、国際的な全面使用禁止には強く反発している。
 この論争に科学的見地から寄与するために、生態リスクと健康リスクをくらべる。これらのリスクのトレードオフを考え、DDT の使用禁止すべきかどうかの政策決定になんらかの指針になること、それによって生態リスク概念が化学物質の管理に定着することを目指す。 

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