宿主と寄生者の軍拡的共進化の数理的研究
原口佳大(九大・理・生物)
2月3日 (水) 午後4:00-5:30

病原体の個体群動態や進化の解明は、野外生物の保全や存続を考えていくうえで重 要な課題である。野外集団における伝染病の被害はどのように拡大し終息するの か。希少種の保全政策の上で、病原体によって集団が絶滅におい込まれる可能性 はどの程度重視すればよいのか。病原体の宿主特異性、また宿主抵抗性が急速に 進化するとき、集団の存続や被害の規模にどの程度の影響を与えるのであろうか。 この問題に答えるために宿主と寄生者、宿主・病原体の相互関係における進化、共 進化を数理モデルを用いた研究を行ってきた。
今回の発表では主に、空間構造を考慮したモデルにおける病原体の感染率と病毒 性の進化について、ペア近似とシミュレーションを用いた解析の結果を紹介する。 病原体はその感染個体の近くにいる健康な宿主のみに感染し、しかも感染個体は子 供を残すことができないとする。病原体は自分より少し高いか低い感染率のものに突 然変異できるとしている。格子空間を仮定したとき、宿主は局所的に集中分布する傾 向がある。感染率のみに着目すると、もし感染率の高い病原体が、ある健康宿主ク ラスターに侵入すると、すぐに全ての宿主に感染してしまう。この病原体が新たな宿 主を得るには、健康宿主が存在する他のクラスターに接触しなければならない。しか し、病気に感染した宿主は増殖できないため、その前に感染個体のクラスターは消 失してしまう可能性がある。このことから、空間構造を考慮すると病原体はより弱毒 化しやすくなると考えられる。また本発表では系代培養に関する病毒性の進化につい ても考察する。

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