九州大学数理生物学研究室

数理とデータでせまる体内時計の謎

黒澤 元

理化学研究所 数理創造プログラム(iTHEMS)

2019/3/27, 15:30-, at W1-C-909



Abstract

     私たちの体は時間に支配されている。例えば、1日周期のリズムである概日リズムは多くの生理現象のタイミングを支配し、その異常は睡眠障害や高血圧の原因となる。概日リズムを構成する遺伝子やタンパク質の理解は進み、一昨年ノーベル賞の対象にもなった。構成要素の理解がさらに進めば、将来には、関与する体内の全ての分子を取り込み、現象を完璧に再現できる概日リズム詳細シミュレーターが作られるだろう。一方で、必要な制御関係のみを考えた少数自由度の数理モデルも有効である。      セミナーでは、60年以上前から謎とされている「概日リズムの温度補償性」をテーマに、数理モデルと分子生物学実験による理論予測の検証について紹介したい。一般に、細胞分裂や酵素反応など多くの生体プロセスは、温度が上がれば速く進むにもかかわらず、概日リズムの周期は温度に対してほぼ一定である。これを「温度補償性」とよぶ。      私たちはまず、概日リズムに関する少数自由度モデルを構築した。そして温度に対して周期を一定に保つためには、高温で振れ幅を大きくする必要があることを示した。また詳細シミュレーターにおいても同様の傾向を確認した。そこで培養細胞を用いて検証実験を行ったところ、理論予測通り、高温で遺伝子活性リズムの振幅は大きくなっていた。      セミナーでは概日リズムを中心に、また時間があればより長い時間スケールのリズムについても紹介したい。本研究は、儀保伸吾(理研)、Jean Michel Fustin(京大), 岡村均(京大)、鯉沼聡(近大)、重吉康史(近大)らとの共同研究である。

Back: 2019

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