「環境影響と効用の比較評価に基づいた化学物質の管理原則」(中西プロジェクト)
DDT の生態リスク評価
ーロングアイランドのセグロカモメの生態濃縮を例にー
化学物質の毒性が生態系に及ぼす影響の評価においては、バイオマス、生産速度や物質、特定の目立つ生物種の個体数など、さまざまなものに着目した研究が行なわれてきた。本論文では、化学物質暴露がもたらす野生生物集団の絶滅リスク上昇を評価する新しい方法を提案する。具体例として、ニューヨーク州ロングアイランドで報告された水域での
SDDT濃度(DDT派生物質の総濃度)がセグロカモメ(Larus
Argentatus)集団に対して及ぼす影響を試算した。
セグロカモメは食物網の頂点にいるため生物濃縮の効果が大きい。また絶滅リスクについては、確率微分方程式モデル(カノニカルモデル)にもとづいた期待存続時間の理論式を使用するが、そこに含まれる3つのパラメータ、内的自然増殖率(個体群全体の増殖率)、環境収容力(生息地にいる個体数)、環境変動、およびそれらに加えて、DDT暴露がもたらす世代当たりの生存率低下を
SDDT濃度の関数として推定する必要である。
内的自然増加率は、ニューイングランドの新しい生息地に侵入したセグロカモメ集団の倍加時間から計算した。環境変動の強さは個体数変動の幅から推定した。DDT暴露がもたらす世代当たり生存率低下は、環境中の生態濃縮係数、別種の鳥を用いた卵中
SDDT濃度とヒナの生存率低下の関係、を組み合せ、齢構成のある個体群動態モデルを用いて、マルサス係数の低下量として推定した。これらにもとづいて環境中SDDT
濃度と期待存続時間の減少分の関係式を求めた。
「リスク当量」を、ある化学物質による暴露量について、期待存続時間の減少分と同じ効果をもたらす生息地の減少分と定義する。期待存続時間の減少分をもちいるよりも、リスク当量として表現する方が、化学物質への暴露がもたらすリスクの大きさを直観的に把握する上ではるかに有効であった。リスク当量は生態リスク評価や化学毒性管理においてとても有用である。
キーワード:生態リスク評価、SDDT、期待存続時間、生態濃縮、リスク当量