International Botanical Conference (IBC) 2024, Kew herbarium
D2の夫婦石です。
ずいぶん前になってしまいますが、2024年7月末にIBC 2024へ参加し、8月頭にKew herbariumを訪問してきました。また、この旅から縁がつながり、11月半ばに開催された個体群生態学会のシンポジウムにて発表の機会をいただいたため、その様子も少し交えてご紹介します。
1.IBC 2024
まず、7/21~27にかけて、スペインのマドリードで開催されたIBC 2024 (International Botanical Congress 2024)に参加しました。IBCは6年に1度開催される国際的な植物学会であり、分類学から理論研究、分子生物学から保全まで、幅広い分野の研究者が一堂に会する学会です。歴史が100年以上あるため規模も大きく、今回は20カ国以上から約3,000名の研究者が参加し、29名の研究者によるkey lecture、267のシンポジウム、約1,400件のポスター発表が実施されました。
また、IBCの始まりが植物分類学に根ざしていることから、学会前に5日程度の命名法セクション(分類学的取り扱いが難しい分類群について議論をする)が実施されるのもこの学会の特徴です。このような命名法セクションがあることから、kew herbariumをはじめとした世界各国のherbariumからキュレーターの方が多く参加されており、herbarium・標本・デジタル化・市民科学、というようなキーワードを含む発表が特に多かったように思います。
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2.Kew herbarium
IBC後はイギリスへ移動し、Kew herbariumを訪問しました。Kew herbariumは約700万点の維管束植物標本を収蔵しており、その数は世界一を誇ります。そのため標本庫は大変広く、写真のような建物が少なくとも4棟はありました。Kew herbariumは標本のオンラインデータベース化にも注力しており、滞在中にはキュレーターの方からオンラインデータベース化手法に関して説明を受けました。標本撮影を行うためだけの撮影室があるだけでなく、撮影機材(レフ板・カメラなど)の質の高さにも驚きました。また、標本の台紙への糊付、標本ラベルの情報入力やそのチェックなどは少なくとも5人以上で行われていました。このことから、標本情報をデジタルデータ化する重要性が強く理解されていると感じました。
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一方で、Kew herbariumは地域住民の生活にとけこんだ植物園でもありました。世界中の植物が観察できるのはもちろんのこと、ブナ科やカエデ科の巨木が園内に広く植えられており、その下で過ごす市民の様子がよく見られました。また、園内には目をひく建造物や、歴史を感じるレストランや催事場が複数設置されており、植物を観察する以外で植物園へ訪れる理由が複数ある、という点が印象的でした。このような点が住民と植物園の距離を近づけている理由の1つだと感じました。
イギリスは世界的にも市民参加型の保全活動が盛んで、かつそのための国家予算も潤沢です。今回Kew herbariumにて感じた「植物園(などの学術機関)と市民の近さ」は市民の植物学へのハードルを下げ、それが結果として生物多様性保全へのハードルを下げたりするのではなかろうか、と帰りの機内で考えていました。
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また余談ですが、IBCにて研究に興味を持ってくださったOISTのDavid Armitage博士からお誘いいただき、11月中旬に那覇で開催された個体群生態学会のシンポジウムに講演者として参加しました。ちなみに個体群生態学会は昆虫を対象としたマクロ研究が多い印象で、次いで植物-昆虫間の相互作用に着目した発表が多かったように思います。
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約2週間さまざまな刺激を受け、多くの学びを得た旅となりました。旅費支援という形でこのような機会を与えてくださった、次世代研究者挑戦的研究プログラム、九州大学基金支援助成事業には心より感謝を申し上げます。
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