University of British Columbia(UBC)での5ヶ月の研究留学
D3の富本創です。
2024年の10月から5ヶ月間、University of British Columbia(UBC)のSarah Otto研究室に滞在してきました。その間の体験を少しご紹介します。
UBCはカナダの西海岸、ブリティッシュコロンビア州にある総合大学です。私が滞在したPoint Greyキャンパスは、バンクーバー市街地からバスで一時間ほどの郊外にある半島の先端に位置しています。三面を海と針葉樹林に囲まれた、自然豊かなキャンパスでした。そこのBiodiversity Research Center (BRC)という、進化・生態学の第一線で活躍する研究室が集まったマクロ生物学の世界的研究拠点で研究をしてきました。


Biodiversity Research CenterはBeaty biodiversity museumという自然史博物館に隣接しています。毎朝、展示されているクジラの骨格を眺めながら通っていました。
BRC内では、学生・教員間の交流がとても活発で、他の研究室メンバーとも頻繁に話す機会がありました。学生によるセミナーに加え、外部からの招待セミナーが毎週開催され、活発な議論が展開されていました。さらに論文の輪読会が進化生物、生態学、理論生物と異なるテーマごとに開かれており、ここの人たちは一体いつ自分の研究を進めるかと心配になるほど、イベントが目白押しでした。
このような横のつながりの強さは、自分の専門分野外の研究に日常的に触れることを可能にし、自身の研究を俯瞰的に見る能力を養うことができると感じました。私も短い滞在でしたが新しい研究のインスピレーションを色々と得ることができました。何よりも強く印象に残ったのは、こうした他研究室間、学生教員間の風通しの良い環境を、構成員全員が意識的に維持していたことです。
BRCによる研究交流イベントだけでなく、学生主体でも多くのイベントが開かれていました。毎週金曜の夕方に学生がドリンク片手に雑談する時間があったり、バンクーバーの他大学も交えたリトリート合宿があったり。何より驚いたのは、クリスマス休暇の前に開催された、院生達による劇です。研究センターの教授陣に扮した学生が、すったもんだのコメディー劇を繰り広げていました。2024年はUBC内で広まったゾンビウイルスが教授達の間でどんどん感染してゆく、というストーリーで、数名感染により死亡するという大変フキンシンな内容でした。教員や学生は、それを爆笑しながら楽しんで観劇していました(劇中に使われた動画のリンクです。https://www.youtube.com/watch?v=CC2qc5eIfnA。Huts skitで検索すると、他にも楽しい動画が出て来るのでぜひ)。実際、とても面白かったのですが、日本で同じことが出来るのか……? と考えさせられました。
学生達と教員の間に信頼関係があってこそ、教授陣を馬鹿にしたこの劇ができます。学生と教員は対等な立場で接して行こう!という強いメッセージを感じました。学生達はこの劇のために、なんと秋学期間の毎週土曜に集まって準備していました。もちろん彼らは楽しんではいましたが、かなり大変です。それだけの労力を払うからこそ、学生教員間の風通しの良い環境が維持できているのかと、感心させられました。言うは易し、行うは難し。


研究リトリートでの仮装ダンスパーティー。欧米だ、と圧倒されつつも踊ってみると意外と楽しさが分かりました。コメディー劇のポスター。学生達が扮する教授陣は、見たことのある書籍や論文の著者ばかりで……UBC恐るべし。
Sarah Otto研究室のメンバーをはじめ、温かく私を迎え入れてくれた皆さまに、この場を借りて心よりお礼申し上げます。さて、私がBRCやSarah Otto研究室で学んだ研究内容については、今後の論文を待っていただくとして、カナダでの5ヶ月間の海外生活についても少しお話しします。
バンクーバーは太平洋に面しているだけあり、アジアからの移民や留学生が多く、その影響は食文化にも色濃く反映されていました。日本食も有名で、学生に何かバンクーバーらしい食べ物ない?と聞くと、Sushiをおすすめされました。実はカリフォルニアロール発祥の地らしい。お米も普通に食べられるので、日本食が恋しくなるということは、まったくありませんでした。
私が滞在した秋から冬、春にかけては雨季で、乾燥が苦手な私にとっては過ごしやすかったです。そのため気温も安定しており、基本的には福岡からマイナス3〜5度ほどで、寒さもそこまで厳しくはありません。滞在中の2月に研究室訪問した内陸部のカルガリーではマイナス25度とこれまで経験したことのない寒さでしたが、沿岸のバンクーバーはカナダでは比較的暖かい地域だそうです。しかし、天気は基本的にどんよりしているので、どうせ滞在するなら春〜秋の方が良かったかもしれません。



学生たちと一緒に行ったKoi Sushi(鯉!?)というお店で食べたSushi。鉄火巻き「は」普通に美味しかったのでびっくり。他は、寿司の定義を再考する良い機会になりました。London fogというバンクーバー発祥のミルクティー。よく研究のお供に飲んでいました。一度だけ積雪があった際のキャンパスの様子。奥に見えるのは、図書館。


バンクーバー近郊の森林で見つけた倒木のプランター。福岡では見られない倒木更新!ちょうど、サケの遡上の時期と重なっていたため、同居人に誘われ釣りにも行きました。河を埋め尽くすサケの群れを見て、リン循環だ、と感動しました……。バンクーバーは、雄大な自然に囲まれた生活しやすい街でした。研究留学先を探している人はぜひ。
滞在中はシェアハウスで、ロシア、イラク出身の学部生、ポスドクと同居していました。ちょうど、お隣アメリカの大統領選の時期と重なっていたこともあり、国際情勢についてこれまで以上に身近に感じながら、色々と議論する機会がありました。私自身は、世間一般よりもそうした事柄に関心の強い方だと思っていましたが、日本人として視点からの意見を問われることも多く、自身の見解を持つことの重要性を実感しました。留学経験としてありきたりなエピソードですが、やっぱりその感想を抱くのかぁ、と面白かったです。
5ヶ月という短い期間ではありましたが、国際社会の中の日本人としての私、国際的な学術コミュニティの中で自身が研究していること、そうした広いコンテクストの中に位置する自分を実感することができ、視野が広がったように感じています。
今回の研究留学では、日本学術振興会の海外挑戦プログラムにご援助いただきました。学生として海外の研究機関に滞在し研究を進められた日々は、今後の自身にとってかけがえのない財産になると感じています。このような貴重な経験の機会をいただき、心より感謝申し上げます。
最後に少し蛇足を。円安の影響もあってか、どうも海外挑戦プログラムは2024年度で廃止のようです。海外特別研究員は継続するようですが、海外の研究所で同じ学生として他の院生達と過ごす経験は、ポスドクで代替できるものではないと感じています。大学院生が海外に長期滞在し見聞を広める機会を、今後もどうにか継続してほしいと願っています。
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