数理生物学研究室イメージイラスト

ESEB 2025 – Congress of the European Society for Evolutionary Biology

D1の工藤です。
8/17から8/22にスペインバルセロナで開催されたヨーロッパ進化学会(ESEB2025)に参加してきました。その後、植物の概日時計の専門家であるPaloma Más教授の研究室を訪問してきました。

ヨーロッパ進化学会参加

私は2025年にスペイン・バルセロナで開催されたヨーロッパ進化学会(ESEB)に参加し、口頭発表を行いました。本大会にはヨーロッパをはじめ、アメリカやアジア各国から多くの研究者が集まり、会場では連日活発な議論が交わされました。初日のWelcome receptionでは、ニュージーランド、アメリカ、シンガポール、韓国の研究者らと知り合い、互いの研究やキャリアについて語り合い、その後の会期中も交流を深めることができました。

二日目以降は基調講演、企画シンポジウム、ポスター発表が並行して行われ、発表内容は遺伝子やゲノムの進化、寄生と被寄生の関係、微生物群集を対象とした進化研究、数理モデルによる研究、さらには古代DNAを用いた絶滅生物の解析まで、多岐にわたっていました。ポスターセッションでは同世代の学生による研究が多く発表されており、研究内容に加えて博士課程後の進路や海外進出について意見交換を行う中で、非常に刺激を受けることができました。

私は「Genomic insights into evolutionary adaptation and species movements in a changing climate」という生物の季節性や気候変動が生物に与える影響に関するシンポジウムで発表を行いました。サケの遡上時期の話やアフリカの乾燥地に適応したネズミの話、雑種形成で高温耐性を獲得したシロアリの話など、対象種も手法も多様な興味深いセッションでした。私自身の発表では多くの研究者に興味を持ってもらうことができ、専門的な手法に関する質問を含め多くのフィードバックを得ることができました。特に私が取り組んでいる季節の野外トランスクリプトームは、ヨーロッパでは珍しいようで、特に興味を持っていただけました。

最後に、本大会を通じて特に印象的だったのは、気候変動への高い関心です。集団ゲノミクスを用いて高温や乾燥環境に適応する遺伝子変異を特定する研究や、樹木や魚類などを対象に、異なる環境に生息する生物集団のゲノムを比較することで気候変動の影響を予測する研究など、基礎から応用まで幅広いアプローチが示されていました。こうした発表を聴講する中で、自身の研究が社会課題とどのように接続し得るかについて新たな視点を得ることができ、大変有意義な経験となりました。

会場前のパネルにて
ポスターセッションの様子
発表の様子。少し緊張しましたが、良いフィードバックを得ることができました。

研究室訪問

学会終了後、私はバルセロナ自治大学(UAB)にあるCenter for Research in Agriculture and Genomics (CRAG)を訪問し、植物の概日時計研究の第一人者であるPaloma Más教授の研究室を訪れました。滞在中にはセミナーの機会をいただき、自身の研究を発表しました。植物を対象とした実験研究に精通する研究者ならではの質問を多く受け、新たな視点や気づきを得ることができました。また、大学院生の進める研究プロジェクトについて伺い、その困難な実験を着実にこなしている様子に強い刺激を受け、自らの研究へのモチベーションが一層高まりました。

訪問の最後にはセンター内部を見学しました。建物は4階建てで、各階には実験で使用する植物栽培用チャンバー専用の部屋があり、たくさんのチャンバーが整然と並ぶ様子に驚きました。最上階には温室が設けられ、イネやトマトなど多様な植物が栽培されていました。案内をしてくださった大学院生の方によれば、研究室間で機材や試料が共有されており、各研究者が予約して効率的に利用しているとのことでした。普段多くの時間をパソコンの前で過ごしている私にとっては全てが新鮮で、特に、論文で読んだり、共同研究者から頂いたりして目にする実験データが、このようにして生み出されているのだと実感することができ、とても貴重な経験をすることができました。

研究所があるバルセロナ自治大学はバルセロナ中心部から電車で1時間ほどの緑豊かな場所にあ利、研究に集中できる環境でした。右の写真は、研究所前にて研究室の大学院生の方が撮ってくださいました。
キャンパス内でブナ科の樹木を発見。見つけると少し嬉しい。友人に聞いたところ左↑はQuercus rotundifolia、右→はQuercus pubescensではないかと思われる。

最後に

スペイン滞在を通じて、多くの学びを得ることができ、自身の成長を実感する機会となりました。今後の研究生活においても、この経験を糧に一層力を入れて取り組んでいきたいと考えています。滞在中に出会った方々(学会で出会った研究者ら、研究室訪問で訪れたMas教授や大学院生の皆さん、宿泊先のお母さん、街の人々など)はいずれも親切で、研究面だけでなく人とのつながりを強く感じた旅でした。機会があれば、ぜひ再びバルセロナを訪れたいと思います。

 

最後に、旅費支援という形でこのような機会を与えてくださった、九州大学基金支援助成事業と科研費植物気候フィードバックに心より感謝を申し上げます。

           
バルセロナの街並み
サグラダファミリアで有名なガウディがデザインしたことで知られるグエル公園のイグアナ?像。実は今回参加したヨーロッパ進化生物学会のバルセロナ大会公式ロゴのモチーフになっている。ぜひ会場前で撮った写真の左端に写っているロゴと見比べて欲しい。
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