数理生物学研究室イメージイラスト
1998/6/25 15:30 -, at 九大理学部3号館 6階 3631

ゲノム刷込みの進化:遺伝子コンフリクトの結末

九州大学理学部生物学科 巌佐 庸

マウスやヒトの胚の数十の遺伝子では、父親由来アレルと母親由来アレルの一方だけが発現し他方は不活性である。どちらが発現されるかは遺伝子ごとに決まっている。この現象を「ゲノム刷込み」と呼ぶ。
ゲノム刷込みがなぜ哺乳類だけにみられ、なぜ特定の遺伝子に、なぜその方向に見られるのか、などを進化生物学の観点から説明するコンフリクト説について、量的遺伝モデルによってモデル化する。次に、この説の問題点について以下の4点をあげ、それぞれを基本モデルの変更による説明を試みる。
[1]胚成長にかかわる遺伝子でもゲノム刷込みを受けないものがある。
[2]胎盤形成に重要な遺伝子Mash2は父親由来アレルが休む。
[3]父性ダイソミー胚が正常胚よりも小さいことがある。
[4]X染色体の刷込みは逆転している。
以上により、常染色体上の遺伝子についてのゲノム刷込みはコンフリクト説によって説明されるが、X染色体上の遺伝子には「性による違い」を反映するよう進化するためにコンフリクト説があてはまらないと結論する。