数理生物学研究室イメージイラスト
1998/10/6 15:00 -, at 九大理学部3号館 6階 3631

真性粘菌変形体における収縮リズムのパターン形成

理化学研究所,バイオ・ミメティックコントロール研究センター 中垣俊之 , 山田裕康

真性粘菌の変形体は多核単細胞生物であり、脳のような中央情報処理器官をもたない。それにもかかわらず粘菌は統率のとれたアメーバ運動をして的確に行動できる、なかなかあなどれない生物である。粘菌は細胞内のあらゆる部分で周期的収縮運動をなし、それにより静水圧差を得て原形質流動を起こし、細胞体は移動する。このとき細胞形態は著しく変化する。粘菌の構造は外側のゲル層(応力を発生する)と内側のゾル層(流動する)からなり、両者は変換しあいながら巨視的な形態"原形質流路ネットワーク"を形成する。振動パターンからネットワーク形成、パターン形成の階層間相互作用からさらに行動の発現へとつながる粘菌システムの自己組織化の構造を検討する 。従来、粘菌の収縮弛緩振動の数理モデルとして、結合振動子系や振動性反応拡散系が用いられている。
同期現象や位相勾配形成などの結果がこのモデルから得られており、近年はさらに細胞行動を探る研究もはじまっている。これに対し我々は、原形質流動の効果を考慮した反応拡散移流モデルを提案した。我々のモデルは生体内の代謝振動子が拡散と流動という輸送現象によって結合している点に注目して構成されている。このモデルをもとに、ネットワーク形成のダイナミクスを議論してゆきたい。 セミナーの前半は中垣が粘菌の行動発現に関する実験を、後半は山田が反応拡散移流モデルの解析について報告する。