海産緑藻における配偶子の行動と異形配偶子接合の進化
古くから多くの理論家たちが取り組んできた異形配偶子接合の進化について、近年、海産緑藻を材料にして私たちが明らかにしてきたことに基づきながら、数理モデルを用いて理論的に考察してみたいと思います。 多くの海産緑藻では、雌雄の配偶子は同形もしくはわずかな異形で、どちらも眼点と呼ばれる器官を有しており、放出された配偶子は正の走光性を示して海面直下に集まります。これは、接合場所を2次元平面に限定することによって雌雄の配偶子の接合頻度を高めることに役立っています。しかし、私たちは、異形配偶の進んだイワヅタ目の海産緑藻ハネモの仲間では、雌性配偶子は眼点を有しており、正の走光性を示すにもかかわらず、雄性配偶子には眼点が存在せず、走光性も示さないことに気が付きました。正の走光性を示して海面直下に集まる雌性配偶子と走光性を示さない雄性配偶子が効率的に接合できるのだろうか?という点に疑問を持って調べたところ、海産緑藻では初めて、これらの雌性配偶子に雄性配偶子を誘引する性フェロモンが存在することがわかりました。従って、雄性配偶子は走光性器官を失うまでに小型化し、 雌性配偶子は走光性器官を持ったまま大型化し性フェロモンを放出する能力を獲得したのではないかと考えられます。 モデルでは、まず、雌雄の配偶子は同じ量の資源から生産されるものとし、配偶子の遊泳速度はその体長に反比例するものと仮定して、配偶子どうしの衝突頻度から形成される接合子の数を推定しました。さらに、形成された接合子の生き残りやすさはそれが有している資源の量(i.e. 容積)に比例するものと仮定し、考えられるさまざまな配偶システムについて次代に残すことができるであろう子孫の数を比較しました。