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2001/02/06 13:30 -, at Room 3521

海洋固着性生物の個体群動態と群集構造の数理的研究

九大・理・生物 向 草世香

海洋固着性生物では、物理的環境に応じて特徴ある分布が観察される。例えば造礁 サンゴ群集では、波の穏やかな礁池内は樹枝状サンゴが、波当たりの強い礁縁付近は テーブル状サンゴが優占する。このような空間パターンが生じるメカニズムはまだ明 らかではない。1998年、世界中のサンゴ礁で高水温によるサンゴの大量白化、死 亡が報告された。本研究では大規模災害からサンゴが回復する過程に焦点をおき、着 底、成長、死亡のデモグラフィックプロセスが個体群および群集動態に及ぼす影響に ついて数理的モデルを用いて解析を行った。他の生息地から幼生が移入する開放系で 、幼生着底、および個体の成長が空き面積に依存すると仮定したコロニーサイズ分布 動態モデルを考えた。観測値を用いた数値解析の結果、幼生着底が短期間に起こるに も関わらず、個体の成長のばらつきが大きいためサイズ分布に明確なコホート構造は 生じないことが明らかとなった。この時の平衡分布は、幼生着底を連続と仮定して得 られる解析解で近似できることが示された。また2種の被度動態モデルから、死亡率 が小さい場合、被度は幼生着底と個体の成長により素早く回復する。しかし種組成は 徐々に変化し、平衡状態では死亡率の違いに強く依存することが明らかとなった。
  今まで述べてきた開放系では、外部から常に幼生が供給されるため局所個体群での 種の絶滅は起こり得ない。多種共存の問題を考えるには、各生息地の成体と同時に、 幼生プールの動態を考慮したメタ個体群モデルが必要である。そこで、各種の死亡率 、幼生生産率、着底率がそれぞれ異なる複数の生息地からなる2種系ロッタリーモデ ルを構築し、環境の空間異質性が種の共存条件に及ぼす影響を解析した。その結 果、死亡率の違いは2種の共存を導くが、幼生生産率の違いは共存を導きにくくする 。これは環境の時間変動を考えた旧来のロッタリーモデル(Chesson and Warner1981 )とは正反対の結論となった。また、幼生のうち一定割合が他の生息地へ運ばれる不 完全交流の場合、幼生交流率が小さいと2種の共存が導かれることが明らかになった。