頭部形成におけるOTX1,2遺伝子の機能的な重複について 原腸陥入に関与するSte20-like MAP4K xPIKの機能解析
脊椎動物の頭部はユニークな構造物である。OTX1,2は頭部で発現する遺伝子で、その
形成に重要な役割を果たすことが試示されている。我々はOTX2遺伝子座にOTX1
cDNAを挿入したノックインマウスを作製し、その表現型を解析することにより、OTX1,
2遺伝子の機能的な重複について検討した。
OTX2+/OTX1マウスは、OTX2+/-マウスと比較して、頭部が正常に形成される割り合
OTX2+/OTX1マウスは、OTX2+/-マウスと比較して、頭部が正常に形成される割り合い
が高いことから、OTX1によってOTX2の機能が部分的にレスキューされていることが解
った。さらに詳細に解析するために、発生の早い時期の胎児の表現型について検討し
た。
7.5dpcにおいて、OTX2-/-マウスはほぼ全ての胎児で原腸陥入異常を起こし死んで
7.5dpcにおいて、OTX2-/-マウスはほぼ全ての胎児で原腸陥入異常を起こし死んでし
まう。これに対してOTX2OTX1/OTX1マウスでは、原腸陥入は正常におこっていた。ま
た中胚葉のマーカー遺伝子をIn situ
hybridizationで調べたところその発現は正常であり、中胚葉が正常に誘導されてい
ることが示された。このことから原腸陥入、中胚葉誘導に関するOTX2の機能はOTX1で
置き換えられることが解った。
9.5dpcにおいて、OTX2OTX1/OTX1マウスで前方部神経マーカーの発現を見たところ、
発現は認められたが野生型と比較して発現部位が縮小し、発現量も低下していた。頭
部前方部分の形成に関する機能についてはOTX1はOTX2の機能を置き換えられないこと
が解った。
これらの結果から、系統発生的に古いと考えられる中胚葉誘導、原腸陥入に関与
これらの結果から、系統発生的に古いと考えられる中胚葉誘導、原腸陥入に関与する
機能についてはOTX1によりOTX2を置き換えることが可能で、両遺伝子に共通の機能を
持っていると考えられた。頭部前方部の形態形成に関与する機能については、OTX1で
はOTX2を補えないことからそれぞれ異なった機能を持っていると考えられた。OTX1と
OTX2の間でホメオドメインとそのN末側はよく保存されているがC末側の部分は44%し
か保存されていない。よく保存された部位は両者に共通の機能に関与し、保存されて
いない部分はお互いに異なる機能をになっていると考えられる。重複によりOTX2から
分離したOTX1に変異が蓄積し新しい機能を獲得したことが、頭部前方部において下顎
や内耳など新しい形質を獲得するのに必要であったと考えられる。
原腸陥入は脊椎動物の形態形成において重要なプロセスの一つである。原腸陥入時
原腸陥入は脊椎動物の形態形成において重要なプロセスの一つである。原腸陥入時の
細胞移動にWnt-PCPシグナルが関与していることが知られている。PCPシグナル分子の
一つである、PrickleのカエルホモログであるxPKのPETドメインとLIMドメインをベイ
トに、Two-hybridスクリーニングを行い、xPKと蛋白間相互作用を持つ新規の分子を
同定した。
それはSte20ファミリーに属するMAP4Kであり、Prickle-Interacting Kinase
(xPIK)と名付けた。xPIKはC-junとXenopus
embryoにCo-injectionすると、JNK-Pathwayを活性化し、C-junのリン酸化を促進する
ことが示された。これにより、xPIKはJNK-Pathwayの上流に位置するMAP4Kであると考
えられた。xPIKのkinase
domainの保存された配列にアミノ酸置換を起こしたものを作製したところ、ミュータ
ントではJNK-Pathwayの活性可能が無く、またwild-typeの活性も阻害し、ドミナント
ネガティブとして働くことが示された(DN-xPIK)。
xPIKのwild-typeおよびドミナントネガティブタイプをXenopus
embryoの背側にinjectionすると、両者とも原腸陥入を阻害した。これは正常な原腸
陥入に至適なJNK-Pathwayの活性がありそれよりも活性が上がっても下がっても原腸
陥入が阻害されることを示していると考えられ、WntのWild-typeおよびドミナントネ
ガティブタイプによって示された結果と一致している。
DN-xPIKはWnt-signal-pathwayのコンポーネントの一つであるDshによるC-junのリン
酸化も阻害することが示された。このことよりxPIKも原腸陥入時のWnt-signal-pathw
ayのコンポーネントの一つであると考えられる。
免疫共沈降実験により、xPIKはDshおよびxPKと結合することが示された。この3者の
結合はお互いに競合的であることもあわせて示され、共通の部位で結合していると考
えられる。Wnt-receptorで受け取られたシグナルがDshを介して下流に情報を伝達す
る機構はまだ解明されていないが、xPIKはDsh、xPK両方と蛋白間相互作用を持ち、両
分子の仲介をする遺伝子として注目される。