Population Genetics of Genomic Evolution - Linked Parity Model as a Scaffold for Synthetic Theory -
近年種々の生物種のゲノムにおける核酸の塩基配列についてのデータが急速に蓄積さ
れつつある。集団遺伝学では、数理モデルの結果と実測データの比較から進化要因が
追求され、種々の論争が行われてきた。例えば分子進化の中立説選択説論争や、進化
の連続説断続説の適応限界の問題、有性生殖の意義など多くの興味ある問題が残され
ている。従来の集団遺伝学モデルでは、通常遺伝子の進化を対象とし、遺伝子を自然
選択の単位として扱ってきた。しかし、元来自然選択の単位はゲノムであり、ゲノム
は莫大な数の遺伝子や塩基からなるので、ゲノムレベルの解析には、それに適した新
たなモデル系の導入と構築が望まれる。ゲノム集団は、高度の多自由度系であり、そ
の複雑さをどうモデル化すればその特質をどう簡単に捕らえられるかは、今後の発展
が期待される興味深い問題であろう。
すでに木村資生(1969)は無限座位モデルを導入して、太田朋子と共に分離座位の割
合など、ゲノムレベルの研究を進めてきた。しかし、そこでは環境の変動は取り入れ
られておらず、進化的に突然変異率はどう定まるのか、ゲノムサイズはどう制限を受
けるかなどの基礎的問題はほぼ研究の埒外に置かれた。これに対して、講演者らはマ
ルサシアンが時間変動しても成り立つ一般的定理を求め、パリティモデルと赤の女王
モデルを導入して、最適突然変異率や遺伝的荷重を求め、基礎的問題に迫ろうとして
きた。しかし、これまでの研究は無限大集団か、少数座位の有限集団に限られてい
た。漸く最近になって、多数座位が連鎖したパリティモデルの性質が幾分判ってきた
ので、これを報告して討論を仰ぎたい。このlinked parity modelは、木村の無限座位
モデルを特別の場合として含んでいる。報告では、連鎖が多型に及ぼす効果として、
Charlesworth(1993)らのbackground selectionや、Gillespie(2000)のgenetic draft
理論の適用限界なども論じられる。