自殖の進化の新仮説:送粉をめぐる種間競争が先行自家受粉の進化を促進する
顕花植物における配偶システムは、完全他殖から完全自殖まで、また中間的な自殖率を持つ種など、驚くべき多様性を持っている。自殖を行う種の両性花においては、能動的に自家花粉を柱頭に付着する自動自家受粉を行う種が多く知られている。近交弱勢や多様化の可能性の減少といったネガティブな効果の存在にも関わらず、自動自家受粉が進化してきた要因については、これまで不安定or予測不可能な送粉環境に対する繁殖保証として自殖が機能するという文脈によって説明されてきた。
自動自家受粉は、開花時に行う先行自家受粉と、閉花時に行う遅延自家受粉に大別される。これまで、送粉者による授粉が十分でない(送粉者制限が存在する)場合に遅延自家受粉が進化すること、先行自家受粉を専門的に行う花が相対的にローコストで生産できる場合に先行自家受粉も進化する可能性があること、が先行研究において明らかにされてきた。
発表者は、同所的に分布する在来一年生草本2品種、ツユクサCommelina communisとケツユクサC. communis f. cliataにおいて、非対称的な繁殖干渉が発生していること(ツユクサがケツユクサより繁殖干渉において優位)、その非対称性がツユクサがケツユクサよりも高い先行自家受粉率を持っていることによって説明されること、を明らかにしてきた。それらの結果から、通常先行自家受粉が進化しない(送粉者制限がない・遅延自家受粉ができる)場合でも、送粉者を介した種間競争が存在する場合には先行自家受粉が進化するという仮説を立て、個体ベースモデルシミュレーションを用いて検証を行ったので、その結果について紹介する。