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2024/6/18 13:30 -, at W1-C-909

季節適応を可能にする植物のデンプン代謝モデルの統合解析

Kyushu University 工藤 秀一

地球の自転と公転は昼と夜、冬至と夏至のように、周期的な光環境の変動を生み出す。物質生産を光合成に強く依存する植物にとって、このような変動する光環境への適応は重要である。多くの植物種で見られるデンプンの貯蔵はそのような適応の一つであり、昼間固定した炭素の一部をデンプンとして貯蔵し、太陽光の得られない夜間デンプンを分解することで1日を通した糖の安定供給を可能にしている。さらに、季節的な日長の変化は光合成量に影響を与えるが、日長に応じて適切にデンプン分解速度を調節することにより、植物は異なる日長の下でも糖の恒常性を維持することができると考えられている。最近の研究からデンプンの分解速度が概日時計による時間的な制御や、デンプンの分解で生じるショ糖によるフィードバック制御を受けていることが明らかにされてきた。しかし、これらの知見は個々の変異体観察による定性的な情報に留まっており、デンプン分解速度の日長応答とそれによる糖恒常性維持に対して、各遺伝子がどの程度寄与しているのか定量的かつシステムレベルで評価する必要がある。そこで本研究では、植物デンプン代謝を再現した数理モデルをシロイヌナズナ変異体で得られた実験データに適用し、パラメータを比較することでデンプン代謝制御関連遺伝子の日長応答への寄与を定量的に評価した。数理モデルには、ショ糖の恒常性に基づいてデンプン分解の日長応答を説明する炭素ホメオスタシスモデルを採用した。このモデルでは、植物が1日のショ糖の変動を最小化するようにデンプン分解速度を制御するとし、季節的な日長変化への応答は主観的日長というパラメータで表現される。このモデルを実験データに適用した結果、モデルの予測は実験的に推定したデンプン分解速度の日周パターンを再現し、特に短日条件において、野生型個体の主観的日長が本来の日長と一致していることが分かった。このことはショ糖の恒常性維持がデンプン分解速度を決める重要な要因であり、その性質は光合成が制限される短日条件においてより顕著であることを示唆している。また、ショ糖変動の感知や概日時計の順化に関わる遺伝子の変異体では、長日条件下で主観的日長が野生型よりも1時間以上短くなっていることが示された。これは概日時計の位相調節を介したショ糖フィードバックが、デンプン分解の日長応答やそれによる糖の恒常性維持に重要であることを示唆している。このような数理モデルに基づく代謝データ解析により、植物が季節的な日長変化に応答してデンプン分解を調節する仕組みを、糖恒常性の視点からシステムレベルで明らかにすることができた。