植物の光獲得戦略 −細胞の形状と葉緑体の配置-
地球上の植物種の70%以上は、樹木によって光が遮られた林床に生育している。林床に生育する植物は、日なたの数百分の1の弱光から、木漏れ日によって太陽光を直接受けるような強光に至るまで、広い範囲の強度の光にさらされる。植物にとって光は、光合成反応のエネルギー源として必要である一方で、過剰な光は有害となる。そこで植物は、光の向きや強度を感知し、オルガネラ、細胞、組織・器官レベルの応答を通して、変動する光環境に適応している。
光環境への応答の一つに、葉緑体の細胞内局在変化がある。植物は、葉緑体の細胞内の配置を光強度依存的に変化させることで葉における光の吸収量を調整し、弱光では光合成を促進する一方で、強光では光障害を回避している。我々の研究グループは、モデル植物の変異株を用いて、葉緑体の細胞内局在変化が植物の生育において重要な役割を担うことを明らかにしてきた。さらに我々は、全国各地の林床に生育する250種におよぶ植物について、葉緑体の細胞内配置および柵状組織細胞の形状を調べ、細胞形状が光環境に適応していることを発見した。本発表では、野生植物の網羅的な解析により得られた最新の知見を紹介したい。