数理生物学研究室イメージイラスト
2024/12/6 16:30 -, at W1-D-208

植物の光獲得戦略 −細胞の形状と葉緑体の配置-

九州大学大学院 農学研究院・木質資源理学 後藤栄治

地球上の植物種の70%以上は、樹木によって光が遮られた林床に生育している。林床に生育する植物は、日なたの数百分の1の弱光から、木漏れ日によって太陽光を直接受けるような強光に至るまで、広い範囲の強度の光にさらされる。植物にとって光は、光合成反応のエネルギー源として必要である一方で、過剰な光は有害となる。そこで植物は、光の向きや強度を感知し、オルガネラ、細胞、組織・器官レベルの応答を通して、変動する光環境に適応している。
光環境への応答の一つに、葉緑体の細胞内局在変化がある。植物は、葉緑体の細胞内の配置を光強度依存的に変化させることで葉における光の吸収量を調整し、弱光では光合成を促進する一方で、強光では光障害を回避している。我々の研究グループは、モデル植物の変異株を用いて、葉緑体の細胞内局在変化が植物の生育において重要な役割を担うことを明らかにしてきた。さらに我々は、全国各地の林床に生育する250種におよぶ植物について、葉緑体の細胞内配置および柵状組織細胞の形状を調べ、細胞形状が光環境に適応していることを発見した。本発表では、野生植物の網羅的な解析により得られた最新の知見を紹介したい。

2024/12/6 17:30 -, at W1-D-208

屋久島植物の矮小進化要因の解明―ヤクシカによる採食回避仮説の検証―

九州大学大学院 農学研究院・木質資源理学 髙橋大樹

系統的に異なる分類群における類似した形質の進化 (収斂進化) は、偶然によって生じる可能性が低いため、自然選択による形質進化を調べるための格好の材料である。植物体サイズや葉長が著しく小型になる植物の矮小進化は高山域を中心に世界中から報告されている現象である。これまでの研究により植物群落レベルの矮小進化には低温や乾燥ストレスなどの気候的な要因が影響していることが示されてきた。九州南部に位置する屋久島は、多くの固有種を含む1100種類以上の維管束植物が分布しているが、島内の主に高標高域に分布する100分類群以上の草本植物が、九州などの他地域の普通型集団と比べて植物体サイズが著しく小型化している。これら屋久島の矮小植物群は古くから注目されてきたものの、これまでその進化要因や起源は明らかにされていなかった。発表者はシカの採食圧が強い閉鎖環境下では、植物体を小さくすることで被食されにくくなるという進化的反応による植物の矮小化が報告されていることを踏まえ、狭く隔離された屋久島においてヤクシカによる強い採食圧に適応した結果、矮小植物群が形成されたのではないかと考えた。40分類群ペアを用いた形態計測とゲノムワイドSNPs解析の結果より、屋久島の植物はヤクシカの強い採食圧によって矮小進化したこと、また多くの矮小分類群は最終氷期中に屋久島に定着し数万年という比較的短いスケールで矮小進化が起きたことが示唆された。現在こうした矮小進化をもたらした遺伝基盤を明らかにするために矮小植物のゲノム分析も進めている。本発表ではその結果についてもお話させていただく。